The transparent sun.

「ルカ・ゴワーズの監督にスカウトされたんだ。俺……ゴワーズに行こうと思う」
ジャッシュは僅かに眉をひそめた。努めて冷静に話を聞いていた彼が、初めて表情を崩す。俺は唇を噛むと、少しだけ頷いた。
「……あと3ヶ月で大会の、この時期にか?」
声を荒げることなく、俺に問い掛ける。詰問するでもなく、責めるでもなく。今は彼のそんな優しさが心に痛い。
「こんな時期だから、だよ」
俺は少しだけ笑った。俺の顔は、歪んでいる?綺麗に笑えているといいのだけれど。
「みんなの……この大会の目標は、なに?」
「精一杯がんばる……ワッカの口癖だな。それが、どうかしたのか?」
ジャッシュは、その端正な眉根を寄せる。そんな仕草も、もう見られなくなるんだ。もうすぐに。
「それで……いいのかな?」
ともすれば、くじけそうになる弱い心。そんな自分の心の中の未練を振り切るように、俺は口を開いた。
「……?」
「ブリッツボールってさ、スピラの希望みたいなものでしょ?」
指先に感じる、ボールの感触。俺はほんの少し力をこめて、ボールを握り締めた。
「召喚士がスピラの希望であるように、俺達ブリッツプレーヤーもスピラの希望なんだよ。もちろん俺達は召喚士ではないから、直接シンを倒すっていう希望は与えられないけど……でも明日を生きる力を、がんばる力を与えられる、希望の光でしょ?」
「………」
「だから……がんばってる姿、みんなに見てもらわなくちゃいけないんだよ」
俺は、海へと視線を走らせる。退いては押し寄せる、波の動き。それはいつもの変わらない景色。でも、つねに時間は動いて……二度と同じ時は無いのだ。
「勝てないってあきらめてちゃ、駄目なんだよ」

「シンを倒せないって諦めてる召喚士が居ないように、俺達も勝つことを諦めちゃいけないと思うんだ」
……でも、本当は……どこか諦めているんだ。召喚士も、人々も。シンは倒せない。シンは復活する。束の間のナギ節を期待して……その裏の犠牲に目を閉じて。でも、本当にそれでいいの?
「俺はさ、この島にきたとき、何もかも無くしてて……一人ぼっちだった。そんな時……ブリッツをしてるみんなを見て、すごく勇気付けられたんだよ。ああ、がんばってる人が居る……って」
シンに襲われて……記憶も、家族も総て無くして、この島にたどり着いた。怖くて、寂しくて、不安で、泣きたくて。どうしたらいいのか解らなかったあの日。助けてくれたのはジャッシュだったよね。今と変わらない優しい声で、どうしたんだって。あの時ね、実は泣きそうだったんだ、俺。でもさ、みんなが必死でがんばってるの見て、俺思ったんだ「頑張れる」って。理屈じゃない、ただそう思っただけだけど……感じたんだ、みんなの気持ちを。
「だから、みんなに勇気を取り戻してほしいんだ。『勝とう』と思える勇気を。勝つことを諦めることは楽だよ。でも、それじゃ駄目なんだ。それじゃ今の世界に希望は与えられない」
「……そう、だな」
「俺は……強く願えば夢は叶うって言うことを、思い出させたいんだ」
叶わない夢は無い。でも諦めたら、そこで終わりなんだ。
「だから……俺、ゴワーズに行くよ。ビサイド・オーラカの選手は弱いなんて、もう言わせない」
みんなの笑顔が見たい。
「万年最下位の元オーラカの選手が、ゴワーズで大暴れするんだ。エキサイティングじゃない?きっと会場は大騒ぎだよ」
ジャッシュ……君の笑顔が見たい。
「だから……みんなも思い出してほしいんだ。「勝つ」ってことを。俺は……みんなと決勝で戦いたいから」
俺は……諦めない闘志を持った、ビサイド・オーラカと戦うために、ゴワーズへ行く。
「……強いな。お前は」
ジャッシュの顔が、曇る。俺は、強くなんかない。今でも、気持ちは揺らいでる。震えた指先が、崩れそうな俺の決心を表していた。
「俺は、みんなに恩返しがしたいだけ。もっとも……これは裏切り行為と言われてしまうかも知れないけどね」
「だれも、そんなことは思わない。みんな、お前がそんな奴じゃないことは解ってるから。だから、大丈夫だ。お前は……自分が信じた道を行け」
優しい笑顔だね。いつも、どんなときも変わらない。その笑顔も……もう見られないね。
「ありがとう、ジャッシュ」
太陽の光は、透明だ。でも、確実に俺達を照らし出してる。目には見えない、優しい光。まるで、君のことみたいだよ。太陽の無い世界では、人間は生きていけない。
本当は……ここにいたい。
俺は笑顔を作った。
「決勝で会おうね。……約束」
でも、どんなに遠くても……太陽は俺を照らしてくれるから、きっと大丈夫。
「約束だ。……それまで元気で」
忘れないよ、絶対。


俺の……透明な太陽。

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