A FRIEND OF EARLY CHILDHOOD

「眠れないのかい?
不意に隣で寝ていた筈のジョウイが、僕に話しかけた。
「……うん」
「駄目じゃないか。 明日は武術大会の決勝だよ?」
「……そんなこと言って、ジョウイだって寝てないじゃない」
僕はベッドに寝転んだまま、身体をジョウイの方へと向けた。
「まぁ……そうなんだけどね」
ジョウイは少し笑うと、僕と同じように身体をこちらに向けた。
「少し……話さないかい?」
「いいよ」
僕は薄手のシーツを除けると、半身を起こしてジョウイの顔を見つめた。ジョウイも身を起こしこちらを向く。僕は月明かりの下で、ジョウイの優しげな青灰の瞳が微笑むのを感じた。
「……なんだい?
「なんでもないよ」
そう?とジョウイが笑う。
「明日は……どっちが勝つんだろう?」
「なにが?」
「なにがって……武術大会だよ」
「それって……僕か、ジョウイかってこと?」
「そう」
「…………」
「……あ、あれ? もしかして、怒っちゃったかい?」
「怒ってなんかいないけど……」
「……けど、なに?」
「考えたことなかったから」
ジョウイが驚いたように僕の顔を見つめた。僕は自分の膝を抱くと、その膝に顎を乗せながらジョウイのベッド方を見る。
「……
「僕とジョウイのどっちが強いかってことでしょ? 僕にはそんなことはもうどっちでもいいことだったから」
「…………」
「僕がゲンカク爺ちゃんに武術を習ったのは、誰かに勝つためじゃないもん」
「……そうだね」
僕が強くなりたかったのは……大好きな人を護りたかっただけだから。ジョウイやナナミ、ゲンカク爺ちゃん、道具屋のおじさんやおばさん、宿屋のご主人……。だから勝ち負けなんてどうでもよかった。みんなと試合が出来るのは、自分の力を試すいい機会だと思っていたけれど。
「ジョウイの実力はよく知ってるけど、どっちが勝つかなんて僕にはわからないよ」
不意に立ち上がったジョウイが、僕の隣に腰をかける。ふわり、とジョウイの髪のいい香りが僕の鼻をついた。見慣れた、けれどいつ見ても優しい気持ちにさせられるジョウイの優しげな瞳が、僕へと向けられる。
「……
「なに?」
少し困ったような、迷ったような顔をしてジョウイが僕の瞳を見つめる。
「……どうしたの? ジョウイ」
「ぼくは……」
僕はゆっくりと顔を上げると、ジョウイの瞳を見つめた。視線がぶつかり、ジョウイは更に困ったように笑う。僕はほんのちょっと笑って、前にナナミが羨ましがっていた――確か、自分の硬くて癖のある髪を嘆いていたときに――ジョウイの艶やかな髪に触れた。
「ぼくはね……
「うん?」
ジョウイの長いまつげが3度瞬いた。そうして、一度瞳を閉じて、再びゆっくりと瞳を開ける。
「……キミが、大切なんだ」
「僕もだよ」
ジョウイは眉根を寄せたまま、微笑む。
「……? ジョウイ?」
ジョウイの手が僕の肩に触れた。
「……
肩に乗せられたジョウイの手に、ゆっくりと抱き寄せられる。一瞬、ほんの少しためらったように緩んだ腕。しかし僅かな沈黙の後、微かに力を込められる。
「……ジョウイ?」
「明日……がんばろう」
「うん」
「…………」
背中に回されていた腕が離れ、僕はジョウイの顔を見上げた。ジョウイはそれに気が付くとふわりと笑う。
「そろそろ……寝ようか、
そう言いながらジョウイが立ち上がる。
「――、明日は……」
「僕は、手加減なんかしないよ。ジョウイ」
いくら勝敗が関係なくても、それは変わらない。
「……もちろんだよ、
ジョウイが微笑む。
「そんなこと……言うまでもなかったね」
月明かりがジョウイの白い肌と、僕のシーツに優しげに風で揺れる庭の樹の影を落とした。
「……おやすみ、
僕はゆっくりと瞳を閉じた。
「おやすみ……ジョウイ」

――明日が、いい日になりますように。

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