星に願いを

きらり、と頭上を流星が長く煌く尾を引いてと駆け抜ける。
瞬間的に現れては消えるその偶然に運良く出会えた者達は、自然の驚異に感心と感動を覚え、またある者はその軌跡のお零れに預かろうと、胸のうちに擡げた欲望を露わにした。
それは「想い人と両思いになりたい」だとか「出世したい」だとか様々にあるが、多くの者が宝くじでも買うかのような安易な気持ちでそれに取り組んでいる事だろう。
心のどこかで「叶う筈が無い」「まさかね」等という理屈を感じているからだ。
それでも何故かその迷信じみた行為の総てを否定しきれずに、流れ星を目で追ってしまう。
そこが人間の弱さであり、性であり、純粋さなのだ。
「あーもう、また駄目だったってばよ!」
そう言って、ナルトは自分の髪を勢い良く掻き毟った。
この、『流れ星』の再ブームに触発され、彼も毎晩寝る前に自宅の屋根に上がり流れ星を探し、祈りをささげるものの一人だった。
「もう……ここ一週間で5回も流れ星を見たってのに、結局願い事を言えてないってばよ!」
そう言ってナルトは心底哀しげに掴んでいた毛布に視線を落とした。
「大体さ、大体さ、あの一瞬に願い事を三回も言うなんて無理だってばよ」
ナルトは手元の毛布を乱暴に蹴飛ばすと、ごろりと屋根の上に横になった。
春とはいえ、夜気で冷えた屋根の冷たさが背を伝う。
ナルトは不貞腐れたように横を向いて自分の指先を見つめた。
「あーあ、オレってば、いつになったら願いが叶うんだろ……」
「なんじゃ、お前までこんな流行に流されておったのか」
「うわっ!突然誰だってばよ!」
ナルトは弾かれたように身を起こし、凛と響いた声の主を確かめるように素早く視線を走らせる。
「誰とはなんじゃ。お主は親代わりの声も覚えておらんのか」
兄ちゃん?!」
「そうじゃ。大体お主はわしが近づくまで気がつきもせんとは……忍失格じゃのう」
「だってさ、だってさ!兄ちゃんの気配感じなかったってばよ!」
「そりゃあ気配を殺しておったからのう。じゃがこの程度の殺気くらい気が付かんでどうする」
「殺気込めてたのかよ!」
「む、言葉のあやじゃ」
声の主……はそう言って僅かに息だけで笑うと、その姿を月明かりに晒した。
真っ白な着物に紺色の袴が夜空に良く映えている。
白い肌にかかる黒髪の下の優しげな瞳、艶やかな薄桃色の唇に浮かべた微笑、それらの総てが懐かしさを醸し出していた。
ナルトは思わず立ち上がると、へと抱きついた。
兄ちゃん!」
「なんじゃ、甘えおって」
口調こそ呆れてはいるが、の表情も柔らかい。
はふっと笑ったように息を付くと、優しくナルトの小さな身体を包み込んだ。
「なんだよ!親代わりって言ったって、殆ど家にいないじゃん!」
「まぁ、そうじゃのう」
兄ちゃんだって親代わり失格だってばよ!」
「じゃが、ちゃんとこうして戻ってきておるじゃろうが」
「オレってば男の帰りを待つ港じゃないってばよ!」
「……子供が妙なことをいうでないわ」
は妙に大人びた口をきくナルトに苦笑を返しながら、夜空に視線を這わせた。
「して、ナルトは一体何を願っていたんじゃ?」
「えっとさ、えっとさ!オレってば一楽のラーメン腹いっぱい食べる!ってのと、背が早く伸びるようにってのと、サクラちゃんがオレに優しくしてくれますように!っての!」
「……欲張りじゃのう」
は呆れたように無邪気にそう言うナルトの顔に視線を戻す。
「でもさ、でもさ……なかなかうまくいかないんだってばよ」
「ほう、それはなんでじゃ?」
「流れ星が消えるのが早すぎるんだってばよ」
「………」
「どれにしようか迷ってるうちに、消えちゃうんだってばよ」
ナルトはそう言うと恨めしそうに夜空を見上げた。
青い夜空はそんなナルトの姿を笑うかのように総てを包み込んでいる。
はふぅ、と吐息をつくとナルトの髪を優しく撫でた。
「のう、ナルト」
「ん?なんだってばよ?」
「わしは思うんじゃがな、願い事って言うのは流れ星が流れた瞬間に思わず口をついて出てしまうほど強く強く願い続けていれば、星の力を借りなくてもその願いはいつか自分で叶えられると思っておる。逆を言えば……迷うておるほどの願いなら、それはお主にとって大した願いでは無いという事じゃ」
「………」
「ナルト……お主にはそれほどの願いがあるのかのう?」
優しく問うの言葉に、ナルトは会心の笑顔を浮かべてを見上げた。
「あるってばよ!」
「ほう、それはどんな?」
「最初の願いはさ、オレってば強くなって火影になること!」
「それは星に願えたのか?」
「ううん、これは……願ってないってばよ!」
「……願えなかったのか?」
「違うってば、願わなかったんだってばよ。オレさ、オレさ、これは……自分の力で叶えるって決めてるからさ、お願いする必要ないんだってばよ!」
そういって照れたように笑うナルトに、は俄かに驚きを隠せないでいた。
意志の強い瞳。
子供だ子供だと思っていたナルトが、今とても大きく見える。
は嬉しさと、誰しもが感じる親離れの瞬間を寂しくも感じた。
そんな心の動きを悟らせないように、はぶっきらぼうに言葉を重ねる。
「なんじゃ……それでは結局なにも願いを言うてはおらんのか」
「ううん、それがさ、それがさ!いっこはもう叶ったんだってばよ!」
「……?願いがか?」
「うん。兄ちゃんが帰ってきてくれますようにって!」
「……!」
「こればっかりはさ、オレの努力ではどうしようもないから……一番最初にお願いしたんだってばよ!」
そういってナルトはに無邪気で素直な笑顔を向ける。
「ナルト……」
は思わず視線を逸らせると、僅かに口元を歪めた。
まだまだ彼に出来ることが、自分にもあるらしい。
それがなんだか気恥ずかしくて、それでもこみ上げてくる喜びが心を凌駕する。
「お主は……可愛いやつじゃのう」
「違うってばよ!オレってば格好いいの!」
「どっちでもええじゃろ。可愛いものはかわいいんじゃ」
もう少しだけ、もう少しだけ自分は彼の傍にいることが出来る。
は夜空を見上げて軽やかに微笑んだ。


願わくば、もう少し、彼と共に在れますように……。
星に願いを。

*後書き*

何を隠そう、これは夜桜水月ちゃんへサイト開設祝いに続き改装祝いに贈りつけた作品です(笑)。
なので、これも実は元はノーマルドリームでした〜。
女性ヴァージョンをご覧になりたい方は水月下記ののサイトまで足を運んでみてください。
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「月と日と星の三重奏」 へはこちら 

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