コーヒー牛乳と食パンと俺とお前。

「あのさぁ冥、お前がコーヒー牛乳だとしたら、俺は食パンだよな?」
突然俺の隣に座っていたがそんなことを言い出す。
変なことを突然口走るのは昔からのこいつのクセだが、今回のは普段に輪をかけてわからねぇ。
「とりあえず、わけわかんねぇよ」
俺は興味もなさそうにそう呟くと、昼食の食パンの耳を齧った。
何の加工もしていない食パンからは、素材の味がふわりと染み出る。
ほのかに甘い香りが口の中にひろがった。
「なんだよー、そういうときは礼儀として『なんでだよ?』くらい聞けよなー」
俺の台詞に、焼きソバパンを振り回しながらが拗ねたような声をあげる。
……騒がしいヤツだ。
「興味ない」
俺はそう言いながらコーヒー牛乳のストローを口に含むと、その褐色の液体を吸った。
「つまんねぇ、つまんねぇ、つまんねぇ〜!」
「……餓鬼」
俺はそう言ってに背を向けると、再び食パンに齧りつく。
「同じ歳だろ!」
「精神年齢が違う」
俺は溜息をつくと、食パンの耳を齧り取った。
「うわー、オヤジ的発言!」
「てめぇ、ぶっころだ」
俺がさして怒った風でもなくそういうのを聞いて、はふとその形の良い眉根を寄せる。
「それそれ。そういうところ、最近猿野に影響されてるよなぁ」
「……はぁ?」
「例えばさ、今の『ぶっころだ』とか。中学時代は言ってなかったじゃん?なんだかんだ言ってやっぱり猿野と仲がひひのかなぁ、と思っふぇ」
は、最後の方を焼きそばパンを口にくわえながらそういう。
……だから、てめーは何いってんのかわかんねーっての。
「よくねーよ」
「俺はら見へへばわるふはいよ」
「とりあえず、食ってから言え。何いってんのかわかんねぇよ」
「だからぁ、俺から見てれば仲悪そうにみえねぇっていってるの」
「悪りぃっていってんだろ」
俺が溜息混じりにそう呟くと、は口をへの字に曲げた。
「超ゴージョー」
「うるせぇ」
全く騒がしいヤツ。
いつだってこいつは俺の変化を等の本人よりも先に一番に気がつき、言い当てる。
いつも俺のことを見透かしているようで、癪に障る。
そのくせに、俺の気持ちだけには絶対に気がつきゃしねぇんだ。
本当に厄介なヤツ。
「いいじゃん。ライバルがいることはいいことじゃん?」
「あんなド素人の、誰がライバルだ」
「冥が」
「ふざけんな」
「あ、今わざと『ぶっころだ』って言わなかっただろ?」
「てめ、ぶっこ……」
「ほら!」
「ちっ……猿野のことなんて関係ねぇだろ。だいたい……」
「関係なくないよ!」
突然、の真剣な声が俺の声に重なる。
なんだっていうんだ?
「俺にとっては……関係なくない」
「ああ?」
の長い睫毛が瞬く。
俺は今日既に何回目かの溜息をつくと、持っていたコーヒー牛乳のパックを床に置いた。
ふと、雲が太陽を隠して空全体が暗い影に包まれる。
屋上をふわりと通った風が、不意に肌寒さを思い出させた。
「なんか最近、冥が楽しそうでさ」
「……?」
「きっと本当に楽しいんだろうしさ」
「………」
「俺といるより楽しいのかなぁとか思うと、ちょっと寂しいし」
……バカ野郎。
俺が何でお前とここにいるのかわからねぇのか。
今日だって、無理矢理辰のヤツを撒いてまでお前と二人でここにいるっていうのに。
天然記念物並の大馬鹿だ、てめぇは。
言わなくちゃわかんねぇのかよ。
「食パンはこれといった特徴はねぇけど、素材の味が一番解る」
「……え?」
「俺は食パンが好きで、毎日食っても飽きねぇ」
「……冥?」
「だから毎日食ってる」
「……そうだけど……」
この超鈍感バカ。
「てめぇは食パンなんだろ」
「……あ」
「食パンにはコーヒー牛乳が一番合うんだよ。俺にとってはな……」
くそ、恥ずかしい台詞言わせやがって。
これで気がつかなかったら、てめぇはぶっころだ!
「……それって……」
が顔を真っ赤にして焼きそばパンを握り締める。
ふと、雲の隙間から太陽が地面を照らした。
きらり、との艶やかな髪が光る。
「……こういうことだ」
俺は掠めるようにの唇を奪った。
「……っ!?」
一瞬だけ触れ合った唇は、食パンよりも美味かった。
「とりあえず、食パンは食うものだろ」
さっきより、更に顔を赤くしたが俺に抗議する。
「……っ冥のバカッ!」
「てめーよりマシだ」
コーヒー牛乳と食パンと俺とお前。
それは俺にとって切り離せないもの。
「冥なんか嫌いだ!」
「てめぇぶっころ……」
「でも……その100倍くらい好きだ」
「じゃ俺はてめぇの1000倍だ」
「――〜〜っ!」

コーヒー牛乳と食パンと俺とお前。
それは俺にとって切り離せないもの。

しかたねぇから、傍においてやるよ。

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