いとこ同士

……はぁ……。ほんま、どないしよう……。いやな、僕かてこんな手紙もらったらめちゃめちゃ嬉しいわ。嬉しいし、喜ぶで。けど……なぁ。今は――あかんねん。今はもう心に決めてまった人が、おるねん……。……あ……この名前僕どっかで見たことある……。えーっと、え――っと、
そうや!確か……今年のミス・ユニヴァーシティやんか?!何でそないに可愛い子が……もっと他にええ人おらんかったのぉ?あーもぉ女の子の趣味なんてわからへんねん!女の子が振られるの見るの、メチャクチャ可哀想に思えるやんか!しかも原因が……「彼女いますか?」やて?「彼女はおれへんけど、彼氏はいます」……なんて、誰が言える?あぁぁぁぁっ!どないしょう!……あぁもぉっ、僕はどないしたれええねん!慧曇兄ぃ!

「たーかとっ!真剣な顔して何読んでんねん?」
「……ラヴレタァ」
「ラ、ラヴレタァやて?!お前にか?!どんな物好きや?!」
物好きやて?!な、何やねん、そのあからさまに意外そうな顔わ!こちとら真剣に悩んでるんやで?こぉんなフリフリレース、サーモンピンクのレタァセットにこんなカラフルなペン使うてラヴレタァ書くような女の子に、どうやったらオブラァトに包んだ表現で断ることが出来るかて!
……あ……ひょっとして慧曇兄、僕に手紙来たて気になってるんやろうか?それとも、慧曇兄はこんな手紙のことなんか気にもしてへんのかなぁ?……気になれへんのやろうか?少しだけ……ほんまのほんまに、ほんのちょーっとだけでええんやけど、気にしてくれたらええのになぁ。僕はちょっとムッとしたように唇をとがらして慧曇兄の方を振り返る。ほんのちょっとだけ、いじめちゃえ!
「秘密、内緒、教えたらへん!」
――どうや、ちょっとは気に……なったやろ……?そーだ、慧曇兄も少しは悩めばいいんだもんねーだ! 
「秘密て……何や鷹堵っ!俺にも言えんことなんか?!……さてわお前、俺なんかよりその手紙のヤツのが大切なんやろ!」
「な……何やて?それ、本気で言うとるんか?!もしそうなら、ホンマに怒るで!」
「ほなら誰からか……いや、どんな奴からもろたかくらい言うてもええやないか!」
――何や、ホントは慧曇兄、気になってしょうがないんとちゃうか?なーんや、えらいそわそわしとるんも、妙にからかうような口調しよるんも、みーんな気になっとるからやろか?何か、そう考えると……えへへ。
「なぁ慧曇兄。ホンマは気になって、聴きたくて仕方ないんやないかー?」
……お、赤くなった。もうすぐ来るでぇ、「アホか」か、「怒るで」か、「うるさいわ」か。でも、そんな慧曇兄が好きなんやからなぁ。何かみょーに可愛く思えるやもんなぁ。
「……ホンマふざけとると怒るで、鷹堵」
「ふざけてなんかおらへんもん。……えへ、慧曇兄だぁい好きやでー!」
えーい、抱きついてやれぇ!ぎゅぅぅぅ!
「な、何やねん、急に甘えよって……!コラ鷹堵!真面目に答えんかい!どんなヤツなんや!」
イ、イタタタ……え、慧曇兄、そんなに強く肩掴まんでもええやん……って、えぇ?――ヤツ?男って……?  
「ち、ちょお待って慧曇兄っ!何や勘違いしてへん?」
「――何かって、何やねん」
――あう、慧曇兄が苛々しとる……。
「そ、そやから……えーとな、相手は男ちゃうねん、女の子やねん。――解っとる?」
だから、そんな怖い顔せんといてやぁ……ふぇ。
「――なーんや、ほならべつにかまへんわ。あー、阿呆らし。怒って損したやんか」
……?意外な反応。なんや、女の子ならええの?
「な……何で男は駄目で、女の子ならええねん?どして?」
「どして……って、お前何言うとんねん。よっく考えてみぃ、相手が女ならいくらお前でも犯られることはないやろ?男やったらお前、見てられへんぐらいよぉ危ななるやろが」
「ほなら、僕がヤるかもしれんて考えへんの?犯られるのは駄目でも、ヤるのはええの?」
「ヤりたいんか?ああ、そうかお前まだ童貞やったなぁ。べつにええで、ヤってきても。まっ、どーせヤられへんのやろーけどな、お前のことやから。まあ……とにかく、俺は、お前が犯られるのだけはどーしても許されへんのや」
――慧曇兄……心配せぇへんでももう浮気なんかせぇへんわい。僕が好きなのは慧曇兄だけやもん。
「……っていうか、何で僕が童貞だって決めつけてんねん!ちゃうかも知れへんやん!」
「童貞ちゃうって言いたいんか?エライ説得力ないでぇ?お前の顔は童貞の顔や。そや、賭けてもええで?」
「賭けんでもええ!」
「ほら、童貞やろ」
「童貞童貞って言うな!」
――むっきぃー!…… 何やのん、何やのん、何やのん!どーせ僕わまだ童貞でヴァージンちゃうわ!ほっとけぇ!……初めてやったんやんか、慧曇兄が。僕はそれでええと思っとったけど、そー言われると何や、あかんような気がするやんか!そやけど、他の女性となんてやれるわけないんや。ずーっと、ずーっと片思いやったんやから……慧曇兄に。慧曇兄以外に好きな人なんかおらへんかった、一度も。例え、変態思われても近親相姦や言われたとしても、その想いは変らへんって。慧曇兄が彼女作っても、新しい恋人や言うて僕に紹介してもずっと好きやった。例え、恋人と笑いあってる姿を見て心がズキズキと痛んだって、変えることが出来へんかったから。……傍にいられるだけで、それでもええて。そやから、「好きや」言われたときはもう、何もかんも忘れてまうくらい嬉しくて、嬉しくて……おかしくなってまうかと思うくらいに嬉しかったんやで?僕には、慧曇兄しかおらへんねん。これからやて、そうや。慧曇兄以外好きになれへん。
「――ええもん、一生童貞でも。だって慧曇兄が好きなんやから、仕方あらへんもん。そやから……一生離れてやんないんやもんねー!」
「――アホ。離したるかい」
慧曇兄は軽く溜息をつくと、僕の頭にポムと左手を置いた。慧曇兄はそのまま左手をぐりぐりと僕の頭に押し付けると、今度は右手を肩に回した。そうしてゆっくり慧曇兄の腕の中へと引き寄せられる。慧曇兄の、鼓動、体温、腕のぬくもり。
「頼まれたかて、離したるかい」
僕の頭の上から、耳元に慧曇兄の声が降ってくる。暖かくて、優しくて、ほんの少し照れを含んだ、耳にくすぐったい慧曇兄の吐息混じりの声。とびきり甘くて、蕩とろけそうな色気と熱気を孕んだ囁き。慧曇兄の言葉一つ一つが確実の僕の体温を上昇させてゆく。
「……絶対、離さへん」
駆け抜ける、快感の稲妻。這い上がってくる甘い痺れ。突き上げてくる熱い電撃。僕はゆっくりと慧曇兄の顔を見上げる。溶けてしまいそうなほど、優しい、そして熱い瞳が僕の瞳を捉えて離さない。微かな甘い眩暈。……僕は感情の流れるままに瞳を閉じる。ゆっくりと塞がれる唇。慧曇兄のひんやりと冷たい唇が、僕の唇にぴったりと吸い付く。唇の柔らかな感触が心地いい。いつの間にか頭から腰へと回っていた腕にさらに抱き寄せられ、僕はしっかりと慧曇兄の腕のなかに抱き込まれている。微かに唇がずらされ、さらに強く押し付けられる。
「慧…曇…に――」
僕は微かに慧曇兄のシャツを掴むと、薄れてゆく理性の中でもう一度慧曇兄の名を呼んだ……。

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