子供のキモチ

早く大人になりたい……と思うのは、きっと俺が子供だからなんだろう。
そんなことは解ってるんだ。
俺は17歳、高校2年生。
選挙権もなければ、結婚も、自立もできない子供だ。
そんなことは……わかってるんだってば。
でも、一刻も早く、大人にならなきゃならないんだ。
あの人はもう大人なんだから。
俺なんかに会う、何年も前から大人なんだから。
――8歳か……。
一回りより、ちょっとだけ小さい数字。
その数字の差が、少しも縮まらないのは、誰が悪いわけでもない。
俺が一つ年を取れば、あの人だって年をとる。
6月に俺があの人にちょっとだけ近づいて、9月にまた引き離される。
どうにもやるせない、このキモチ。
あーあ、ある朝突然大人になってないかなぁ。
先生の「好き」と俺の「好き」。
違いってなんなんだろう。
――先生の「好き」は大人の「好き」?
――俺の「好き」は子供の「好き」?
やっぱり、違うのかなぁ……。
「……センセ、好き」
何度夢の中で言っても、先生は笑顔で頭を撫でてくれるだけ。
何も言ってはくれないんだ。
「……すき」
夢の続きが見たくて、いつだって寝る前は先生のことを考えて寝た。
でも、いつも夢は同じところで終わるんだ。
俺は机に突っ伏すと、目を閉じる。
いつものように先生は振り返り、俺の頭を撫でてくれる。
「……直江先生がすき……」
――今日こそは続きを……



「……箕上君、……箕上君……。こんなところで眠っていては風邪を引きますよ……」
「…………せん…せぇ……」
――優しい香りがする……。
「……まったく。しょうがないですねぇ、箕上君は……」
――柔らかな声と共に、大きくて優しい手が俺の髪に触れ、ゆっくりと撫でてくれている……。
「……せん……」
――先生……。
「……なおえ……せんせぇ……すき……」
――またいつもと同じ夢?だったら……覚めちゃ駄目だ……いつもここで……。
「……僕も好きですよ、箕上君」
――……
「……やれやれ、本当に風邪を引いてしまいますよ」
――…
「早く目覚めて……僕に元気な笑顔を見せてくださいね、箕上君……」



柔らかな風が俺の頬をなで上げて通り過ぎる。
俺はそのままゆっくりと初夏の睡魔に誘われていった……。

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