DAYDREAM |
身体中が痛い。 軋むように、引き裂かれるように。 焼け付くような痛み。 焼かれる。 身体中が炎に包まれて。 悪夢だ。 汗とも、涙ともつかない液体が、首筋を流れ落ちる。 いったい俺はどうなるのか。 自分の状況把握さえままならない俺の頭と身体。 いっそのこと。 誰かとどめをさしてくれ……! * * * * * 窓の外から見える、銀杏の樹。 ゆらゆらと銀杏の実が風に揺れて、秋の風情を醸し出している。 俺は溜息を一つつく。 事故から4ヶ月。 奇跡的に一命を取り留めた俺。 本当に良かった、と涙を流して俺にすがりついた母親。 よく我慢した、と涙をこらえた父親。 そんな両親の言葉なんて耳に入っていなかった俺。 良くなんか無い。 我慢しなくちゃいけないのはこれからなんだ。 生きていても。 サッカーができないなんて。 俺の耳が拒否したはずの医者の言葉が、脳裏に焼き付いてはなれない。 二度とサッカーができない。 そんなのは嘘だと。 サッカーができない人生。 俺はこれから何十年死ぬよりも辛い我慢をしなくてはいけないのか。 わからない。 信じられない。 信じたくない。 それでも。 俺の足は以前より動かなくなって。 右足が鉛のように重い。 この奇妙な感覚が。 俺に医者の言葉が真実であることを明確に告げていた。 退院して以来数日の間、俺はサッカーを避けつづけた。 サッカー部専用の寮で過ごすのも明日が最後だ。 監督は俺にマネージャーをしないかと薦めたけれど。 俺は。 サッカーをしている皆を見ているのが辛かった。 だから。 悔しくて、涙がこぼれる。 どうして。 どうして俺なんだ。 どうして俺だけが。 こんなに苦しい? 俺はサッカーをやりたかった。 それ以外望んでいなかった。 それなのに。 なぜよりによってサッカーを。 サッカーを諦めなくちゃいけない? 暖かい涙が俺の頬を伝う。 窓から見える銀杏の樹。 これを見るのは明日で最後。 「……あー……あの、さ……?」 遠慮がちにかかる声。 俺はその声には振り返らずに、ただ窓の外を眺めつづける。 「……」 パタリ、と静かに扉が閉まる音が聞こえて、人の気配が自分に近づく。 「哀れみに来たのかよ?」 俺は自嘲気味に笑った。 けれど、その声すらも掠れてしまってうまく発音できていない。 「……」 ガラス窓に映る、友人の顔。 悲壮で、辛そうで、困ったような。 どうして? 辛いのは俺だろ? お前じゃない。 お前の未来は明るくて。 俺の未来は真っ暗で。 なのに。 なんでお前はそんなに悲しそうなんだよ? 「……ッ……んだよっ」 俺はかわいそうだと。 そう言いたいの? 「なんなんだって言ってんだよっ!!」 「サッカー……やめるんだって?」 一瞬の躊躇いの後、そいつはそう口を開いた。 「……ああ、やめるさ!」 俺は手元のクッションを投げつける。 八つ当たりだ。 「哀れみか?オカワイソウだとでもいいたいのか?そう言うのって偽善っていうんだよ!」 そいつ……藤代は両手でそれを受け止めると、切なそうに笑った。 俺の瞳から再び涙がこぼれる。 頬が、熱い。 「やめちゃ駄目だ」 低く……でもきっぱりと、藤代は言う。 「……なっ」 「やめちゃ駄目だよ」 「お前は、何も失っていない!そんなお前に、サッカーを失った俺の何がわかる?」 「何もわからないよ。でも……お前が苦しんでることだけは解るから」 「だったら放っといてくれよ!」 「放って置けない」 「何でだよ!」 「…………」 「……もう……これ以上見たくないんだ……」 サッカーも、お前の顔も、何もかもを。 「」 とても低くて、搾り出したようなかすれた声。 真剣で――思いつめたような。 俺は驚いてうずめていた顔を少し上げる。 「俺には……いくらあたっても構わないよ。でもさ……サッカーに関わることをやめちゃダメだ」 「……煩い!!」 「黙らない」 「……んでだよっ」 いつになく真剣な眼差し。 俺は……藤代の、この瞳が好きだった。 ボールを追いかける時に見せる、光の宿った瞳。 でも、それももう……。 「ここでやめたら、お前はきっと後悔する」 「しない!」 「する」 首を振り、藤代は俺の言葉を否定する。 「俺のことは嫌いになっても、恨んでもいい。でも……サッカーだけは続けろよ。どんな形でもいいから」 「じゃあさ……お前の足をくれよ……!そうしたら続けてやるよ、サッカー」 どうかしてる。 どうかしてる。 なんでこんなことを言うんだ。 口元が歪む。 自嘲を隠せない。 コイツを困らせて。 なにやってんだ? それでも止まらなかった加虐心。 最低だ。 それでも。 俺を嫌いになってくれれば。 俺の前からいなくなってくれれば。 これ以上俺はお前を傷つけなくなるから。 お前を見てると……。 タノム、モウヤメテ。 「……いいよ。やるよ」 耳を疑う。 「だから……続けろ」 真剣だ。 痛いほどの視線。 「……っざけんなっ!!」 立ち上がって、藤代のシャツを掴む。 「なんでそんな事言うんだよ!?自分の事の方が大事だろ?!カッコつけんなよ!そんな気も無いくせに……!」 これは本心だ。 きっと。 藤代は本当に自分の足を差し出すだろう。 俺の言葉を真に受けて。 「なんで……そんな事言うんだよ……」 握ったシャツをキツク握り締める。 「これ以上……優しくすんなよ」 嗚咽が漏れる。 「……ごめん」 「……あ…やま…るな」 「……ごめん……」 優しく背中に腕が回される。 「でも……俺、のこと好きだから……ずっとサッカーに関わってて欲しい。例えお前が今サッカーをやめたとしても……お前の中のサッカーへの情熱は絶対消えない。そして、きっと……いつか後悔する」 あやすように背中をさすられる。 「俺は……そんなお前を見たくは無い。お前が笑ってくれるためなら、お前のサッカーに対する笑顔が見られるなら、なんでもしてやりたい」 それはきっとコイツの本音。 藤代は……いつだって優しすぎるから。 「ふじ…し…ろ……」 「ん?」 「足なんてくれなくていい……お前のプレイが見られなくなるのは嫌だ……」 それは……賭け値なしの本心。 力があふれる、人を楽しい気持ちにさせてくれる、お前のプレイ。 そんなプレイを、俺自身が見たいと……心から思うから。 「……」 背中に回された腕が少しだけ強まる。 「でも……いっこだけ……叶えてくれるなら……」 「なに?」 「今日だけでいい……今日だけでいいから……傍にいてくれ……お願い」 答える代わりに、俺はきつく藤代の腕の中に閉じ込められた。 * * * * * 「」 暖かい藤代の唇が俺の唇に覆い被さってくる。 柔らかくて甘い感触が心地いい。 ゆっくりと角度を変えながら唇を吸われると、痺れたような電流が背を走った。 なぜ、俺はあの時アイシテルなどと口走ったのか。 わからない。 それでも。 それはこの身を支配する感情を裏切る言葉ではなくて。 俺は答える代わりに重ねられた唇の心地よさにまどろんだ。 二度、三度口付けが交わされる。 合間に吐かれる息が頬をくすぐり、俺の鼓動を跳ね上げた。 素肌の上を這う藤代の指先が、俺の感覚を支配してゆく。 「……っ」 思わず漏れる、吐息。 その自分自身の声の艶やかさに、ゾクリと羞恥の波が押し寄せた。 「」 吐かれる息と共に、名を呼ばれる。 低くて真剣な声。 唇が塞がれる。 幾度も唇を重ね吸い上げ、ゆっくりと滑り込ませた舌を歯列に這わせた。 甘くて切ないキス。 俺は甘い快感の波の中――愛しい人の名を呼幾度も呼んだ……。 「……俺、マネージャーやるよ」 「本当?」 「……うん」 一番近くで……藤代のプレイを見たいから。 お前のプレイを支えていきたいから。 だから……お前は前だけをみて、サッカーをしてくれ。 「ありがとう」 心から、そう言えた。 お前のお陰で。 =ATOGAKI= #うは〜。もうこれはまさに「やま無し、落ち無し、意味無し」ですねっ(開き直り)。 し、か、も。どこが裏?というような絡みの少なさ。ワタシ、絡み苦手なんですね……(爆)。 結局チュウしか表記してませんし。 更に藤代くんちょっと偽。大人すぎ。主人公子供でワガママ過ぎ。暗いし。 涼澤自身はこういった系列のお話はあまり好きでは有りませんが……(なら何故書く?)藤代くんをかっこよく?書ければいいなぁ、と思ったのですが……はう。 でも実際には何があっても藤代くんにはサッカーを捨てて欲しくは有りません。好きな人のためでも。でも、彼の性格上きっと片足でも両足でも上げちゃう気がしますので、その彼を押しとどめるくらいの相手が現れてくれるといいと思います。私的には「ワタシとシゴト度どっちが大切なの?!」的なヒロインは好きじゃないですし、「キミだよ」なんていうヒーローも好きじゃないので。勿論、それがいかに大変かっていうことをわかっていってるんですが。 むずかしいですね。 |
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