Sin and Punishment...
Sin and Punishment…

暴れだす想い。
狂おしいほどの情熱。
際限の無い嘆息。
焦げ付くような嫉妬。
縛りつづける独占欲。
俺を縛りつづける甘い鎖。

俺はいったい君に何を求める?
君はいったい俺に何を求める?

俺の、淡い期待。
君の、強い信頼。

暴れだす。
焦れだす。
狂おしい。

抱きしめたい。
口づけたい。
抱きたい。

綺麗な君を。
俺は瞳で汚す。

君は何も知らないまま。
俺に汚される。

優しい笑顔も。
美しい瞳も。
柔らかな肌も。

全部を陵辱して。

俺だけのものにしたい。

* * * * *

「……さん、兄さん!克朗兄さん!」
「……ん?」
俺は肩を揺さぶられて目を覚ます。
もう日は高い。
俺は慌てて上半身を起こした。
「え……??今は……あれ?」
「うん、もうお昼だよ」
しまった……部活が夏の盆休みに入ったので気が抜けているな。
しかも、久々の自分のベッドということもあってか、俺は見事に目覚ましをノックアウトし惰眠をむさぼってしまったらしい。
「すまないな、いつまでも寝ていて」
「ううん。だって兄さん、昨日も遅くまで部活だったんでしょう?疲れてるはずだよ。家でまでキャプテンする必要ないもん。平気だよ」
そういって……俺の弟は笑う。
「それより、大丈夫?うなされてたみたいだけど……」
そうか、それで起こしてくれたのか。
「俺が?ああ……いや、ちょっと夢見が悪くて。心配かけたな」
「もう、すぐそうやって人の心配する!いいの、僕には弱さを見せても」
「……すまない」
「大丈夫だよ、兄さんには僕がいるから」

母親は昨日の昼から仕事で海外へ飛んでいる。
父親はもともと一年のうち日本にいる時間の方が外国にいる時間より少ないような人種だ。
なので、夏休みの盆休みといえど、相も変わらず家の中はガランとしていた。
もっとも、俺やにしたって学校がある日は寮住まいなので、実質この大層な家には人がいることの方が少ない。
両親が家を留守がちにしだしたのは、俺が10歳、が9歳の時。
それまでは国内を中心にしていた事業を、海外進出しだしたときだ。
そうして一年足らずのうちにその事業は功を奏し、一気に<ALEX-S Co.>の名は世界に広まった。
父親には商才があった。
何をも恐れない強さ。
夢を語る瞳。
あふれ出るカリスマ。
不可能を可能にするこれらの父の才能に、出資者はみな惚れ込んでいる。
だが。
俺は……それ以来そんな父の瞳を見ることは出来なくなった。
俺は……罪を作ったから。

もう、あれから7年の月日がたった。
俺は未だにサッカーを続けている。
父親から唯一教わったサッカー。
別に父親の影を追い求めているわけではないけれど。
ただ……不思議とサッカーだけは好きだった。
「兄さん、お昼はなに食べたい?」
「ん……なんでもいいよ。買い物にいくなら付き合おうか、
「うん、そだね。メニューはスーパーで決めよう」
可愛い、俺の……弟。
「あ……豚バラ安いね〜」
切なすぎて。
「冷しゃぶなんていいかなー」
熱すぎて。
「キャベツも安かったし、これでいっか」
痺れる。
「わ、このヒラメおいしそう!夕ご飯にしようかなぁ」
甘い、甘い痛みが。
「兄さん、これどう?」
俺の心を支配する。

俺の愛しい……

俺は、罪を、犯した。

苦しくて。
痛くて。
切なすぎて。
涙が、こぼれる。

優しすぎて。
甘すぎて。
愛しすぎて。
辛い。


貴方は僕にいったい何を求めてる?
僕は貴方にいったい何を求めてる?

僕の心を縛るのは、甘い鎖。
貴方への、報われない感情。

冷たいほど冴えきった瞳。
火傷するほど焼け付く胸。

貴方への感情が矛盾すぎて。
身を焦がす。

僕の、淡い想い。
貴方の、深い愛。

貴方の瞳に映る総てのものを、壊したい。
その瞳に映る総てを壊して、僕だけを見て。

真っ白な、雪のように美しい貴方の心。
降り積もる雪の道を陵辱するように、足跡をつけて。

僕だけを見て。

僕だけしか、見ないで。

* * * * *

「……、どうかしたのか?」
昼食を終えて、克朗……兄が僕の名を呼ぶ。
「え?どうもしないよー。僕今ボーっとしてた?」
「ああ。熱さでやられたかと思った」
「あ、ひっどーい」
微笑む貴方。
どうしようもないほど湧き上がる、独占欲。
それ以上、優しくしないで。
これ以上、好きになりたくは無いんだ。
こんな報われない想い。
ただ辛いだけ。
「はは、冗談だよ」
貴方の瞳が僕を射抜く。
心さえもがんじがらめにされて。
貴方が好きだと。
言えたとしたら、どんなに楽になれるだろう。
「クーラー、つけようか」
しばらくの後、ひんやりと冷たい風が部屋を流れる。
まるでモデルルームのようなインテリア。
シンプルで品のいい家具が、家の格調高さを彩る。
すべて、父親の会社<ALEX-S>の品だ。
父の会社はいわゆる高級輸入家具の貿易商。
様々な国から気に入った家具を買い付け、それを企業に売る。
もちろん、自社にも販売部はあり、最近では小売にも手を広げだしているらしい。
父の名はその道では知らないものが無いほど高名であり、また社交界で引っ張りだこの人望家でもある。
母は。
頭がよく。
快活な人柄で。
高い理想を持ち。
人を惹きつけてやまないカリスマを持つ。
社員の支持率は高い「理想の上司」だ。

でも。

僕は。
そんな母親の顔をまともに見ることは出来なくなった。
僕は……罪を犯したから。

母から教わったことは色々あるけれど。
一番心に残っているのはフルート。
それだけは今でも続けていて。
何故だかわからないけれど。
多分……母親像を求めているわけじゃない。
ただ、性に合った。
それだけのことなのだろうけど。
僕はフルートが好きだった。
両親は一度も演奏会に来てくれることは無かったけれど。
兄は必ず聞きに来てくれた。
試合のある日も、そのまま駆けつけてくれた。
僕は不覚にも、涙を流した。
「さて、これからどうしようか?」
「んー遊びに行ってもいいけど、せっかくだし今日はゴロゴロする?」
愛しい……僕の兄さん。
「そうだな……DVDでも見るか?」
切なすぎる。
「新作は色々あるけど……はどれが見たい?」
悲しすぎる。
「そういえば、お前はこれが見たいって言ってたな」
焦げ付くように。
「これでいいか?」
焼け付くように。
「じゃあ始めるぞ」
鈍い痛みが、僕を支配する。
涙が出たのは、映画の所為じゃない。

僕の愛しい……克朗。

僕は、罪を犯した。

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