Time as sands… |
時の流れというものは、ものすごく正直だと思う。 辛い時間ほど長く、楽しい時間ほど早い。 時の流れは、自分の気持ちを裸にする。 それでも。 それ自身は決して変わることなく、時を刻み続けるのだ。 自分自身の気持ちを再確認させるかのように、じわり、じわりと。 今日も、時間が滑り落ちる。 「……功……おい、功」 「……ん?」 「指名だよ、さっきから何度も呼んでるだろう?」 「あ、そうか。悪いな」 「……どうかしたのか?最近調子悪そうだぞ?」 「そうでもないよ」 「説得力ないぞ」 「そうかな」 「そうだよ。違うって言うつもりなら、いつもの調子で接客してくれ」 「すまん。いってくる」 「ああ。ほら、グラス」 馴染み客との他愛無い会話。 今日のドレスはよく似合っている、とか、その香水はいい香りだ、とか。 その度に、彼女たちは楽しそうに笑う。 でも。 俺の心は会話を続けるたびに軋んでいく。 賞賛は、心からの気持ちだ。 そのはずなのに、心が痛い。 目の前の美しい女性を褒めるのは、苦痛ではない。 嘘は言っていない。 俺の言葉で、女性たちが輝いていくのを見るのが好きだった。 自身に満ち、光ってゆく女性を見るのが好きだった。 それでも。 あの時ほどの感動は、俺の内にはなくて。 「功!6番ご指名だぞ」 「今行くよ」 「えー、行っちゃうの?」 「すみません、また後で」 「残念〜。でもまた後で絶対きてね」 「約束しますよ、亮子さん」 心が疼く。 賞賛が言葉にならないことがあることを、俺ははじめて知った。 言葉にならない感情があることを、知ってしまった。 俺の唇は彼の名を呼びたくて。 走り出したくなる。 何もかもを投げ出して。 この場から。 「ふぅん、思ったほどしっかりしてるんだな」 「一応プロだからね」 「言うねぇ」 「言わなくちゃ逃げ出しそうになるんだ」 握り締めた砂のように、時間は零れ落ちて。 握り締めた砂のように、俺の心は滑り落ちて。 落ちてゆく。 つないだ指の隙間から、さらさらと。 ――。 今、君に、ひどく会いたい。 |
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