Time of sands...

人を好きになるということはすばらしいことだ。
限りある時の中で、相手の良さを見つける。
ともすれば自身のいいところでさえ見落としてしまいそうな今。
誰かについて必死で考え、想い、良いと思える心は。
荒みきったこの世の中で、オアシスとも言える存在だと思う。

「おい、功!お客さんはもう帰ったのか?」
「ん?ああ」
「だったらもう今日は上がりで良いぞ」
「了解。おつかれさん」

タバコの煙をたっぷりと吸ったシャツを脱ぎ捨てて、真新しいシャツに袖を通す。
太陽の匂いが鼻にくすぐったい。
俺は霞む瞳をこすりながらボタンをかけてゆく。
3つ目のボタンをかけている途中で時計が4つ鐘を鳴らした。
午前4時。
大都会は夜も眠らない。
俺は新しいタバコの封を切り、一本を口にくわえた。
ライターに火をつける。
焦げ臭い匂いが、柔らかな太陽の匂いをかき消した。
俺はなんとなく咥えたタバコを唇で揺らすと、そのまま火を付けずに箱へと戻す。
ただ、なんとなく、そうしただけだったけど、気分がよかった。
今日はそのまま帰りたい気分だったから。

「落としたよ」
「え?」
「マッチ」
「……ああ」
「はい」
「ありがとう」

帰り道、出会ったのは神話に登場するかのような美青年だった。
すべてが完璧な顔の造作。
柔らかな髪。
つややかな肌。
まるで地上に堕ちた天使だ。
彼は崩れかけたブロック塀に、気だるげに腰掛けていた。
都会の真ん中の、荒廃した娯楽地の一角に佇む青年。
その聖と俗とのコントラストが、彼をより神秘的に見せている。

「アナタ、功……でしょ」
「……?」
「風祭 功さん。……『Raphael』ナンバー1ホストの。違う?」
「俺を知ってる?」
「勿論」

彼は「有名だもん」と、吐息をつくように微笑を浮かべる。
綺麗で、淫らで、どこか物憂げな、不思議な笑顔。
抗いがたい魔力を持った、誘惑の瞳。
ただただ引き込まれてゆく。

「君は?」
「俺?」

「………」

伏した睫毛で、瞳が翳る。

「……、だよ」

唇から紡ぎだされる言葉は、絹糸の様。

……か」

その瞬間から。
俺の時は、動き出した。
まるで……砂が流れるように。
少しずつ、確実に。
さらさらと、やさしい音を立てて。
俺は砂とともに。
堕ちていった。


* * * * *

ATOGAKI
ははは……友人、在原汐音嬢リクエストの功兄です。
選抜サイトのうちで異彩を放っておりますね。
というか、続いてるし。むしろプロローグくさいし。
もしや連載?!(あわわ)。そんな予定はなかったのに……(汗)。
でも……なんだか楽しそう……(喜)。ああ、うちは選抜サイト……。
と、とにかく、汐音ちゃんにささげます。
もう、むしろ当て逃げ(笑)。

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