STARS                                         お題:恒星 5 TITLE

 プリケリマ[最も美しいもの]

「へぇ、珍しいじゃん」
ヒュー、とおどけた様な口笛と共にからかう様な台詞が振ってくる。
窓から差し込む月明かりに照らされて、僅かに眉根を寄せたの白い磁器のような肌がさらに輝くように引き立っていた。
「いつもヨユーな顔したがそんな小難しい顔してるなんてさ」
は資料から視線を外さずに、声の主に面倒そうにため息をついた。
「ああ。お前らが人の忠告を聞かずに派手に動いて面倒ごとを増やしてくれるからな。計画が思うように進まない」
「アッ、ホメられた?」
「ああ、ありがたくって涙が出るぜ」
ははじめてそこでその端正な顔を上げると、正面に立つ男……ベルフェゴールに視線をやった。
「それってやっぱ、この前のターゲットの事言われてる?」
「その通りだ」
そう言ってベルフェゴールを睨み付けると、は持っていた資料をテーブルへと放った。
この間のターゲット……の計画に無かった筈の兄弟のエージェントに手を出したときの話だろう。
たしか、マーモンにも叱られたな、とベルフェゴールは苦笑いを浮かべる。
「……おい、反省してんのか」
のよく通る美しいテナーが重厚な部屋に凛と響いた。
ああ、不快な表情をしていてもは美しいんだな、などと不意にベルフェゴールは雰囲気にそぐわない事をぼんやりと思う。
「ん、してないかも」
「だろうな」
は呆れたように再度ため息をつくと、目の前におどけた様に立つベルフェゴールを見上げた。
「あのな、オレはお前の性癖なんかには興味ない、個人的にするなら勝手にしろ。けどな、オレの立てた計画には従え」
不意にの瞳に真剣な光が灯る。
「性癖って……酷くない?」
おどけた様に軽口を叩きながらも、ベルフェゴールはざわざわと肌が泡立つのを感じた。


 アルファルド[孤独なもの]

「おい、ベル……オレ達は今、何のために動いてるんだ?」
――ああ、やっぱりまたその話か。
ベルフェゴールは湧き上がる不快な感情に肩をすくめる。
「解ってる、ボスを10代目にすることだろ」
言いながら、ベルフェゴールは膨れ上がる身体の中のモヤモヤをもてあます様に、乱暴にソファに腰をかけた。
「解ってるならその障害になるような事すんな、馬鹿」
ザンザスについて語るの表情は真剣そのもので、自分の入る隙間などどこにもないのだと痛感させられるその度に、ベルフェゴールは原因不明の苛々に襲われた。
なぜこんなにも苛々するのか。
「大丈夫、が何とかしてるくれるでしょ?」
「オレに面倒かけさせんな、阿呆」
苛々したように舌打ちをするの繊細な横顔をじっと見つめる。
目の前で二人きりで話している時でさえ感じる孤独感。
孤独感?
もしかすると……予定にないターゲットに手を出すのも、ただの気を引きたいだけなのかもしれない……唐突にそう思い至ると、ベルフェゴールは絶望的な気分に陥った。
「……まいったな」
「そりゃ、こっちの台詞だ」
――そういうことか。
漸く合点がいった様にベルフェゴールは豪奢な造りの天井を仰いだ。
因果な運命だと呪ったところで時は既に遅い。
ベルフェゴールはこっそりとため息をついた。


 アルデバラン[後に続くもの]

「あーあ、キミ、罪作りだね」
ベルフェゴールが去った後、いくらもしないうちに新たな訪問者が現れた。
は意にも介さないように手元のノートパソコンのディスプレイを見つめている。
カタカタと、軽やかにリズミカルには素早くキーを叩き続けた。
ディスプレイから放たれるほの暗い光を浴びて、の髪が艶やかに光る。
「ああ、餌付けした覚えはないんだがな、今日は珍客が行列を為して来やがる」
「キミが餌付けした覚えなくても、彼らは餌付けされてる」
マーモンの挑発的な声音に、は面倒そうにその端正な眉根を寄せる。
「マーモン、茶化しにきただけなら今すぐ出て行け」
「ふーん、ベルと僕の扱い、大分違うじゃないか。やっぱ、惚れられてると態度が甘くなるかい?」
にやり、と口元を歪めながら、マーモンは楽しそうな口ぶりでに詰め寄った。
瞬き2回ほどの沈黙の後、驚くほど落ち着いた声がディスプレイを見つめたままのの唇から滑り出る。
「……本当にそう思うか?そう思うのなら、お前への評価を変えなくちゃいけないな」
「へぇ、気がついてたの?」
動揺のかけらも見せないに、意外な様子でマーモンは組んでいた腕を解いた。
「ベルはお前とは違って素直だからな」
「確信犯?怖い奴だね、キミ」
「フン……何とでも言え。オレは……目的のためなら手段を選ばない。それがベストだと感じたらどんな演技でもするさ」
ディスプレイから目を離すことなく、は淡々とそう告げる。
「ザンザスのためなら、なんでも……な」


 シリウス[焼き焦がすもの]

その瞬間、の瞳に焼け焦げそうな強い光が灯った。
普段からあまり激しい感情を見せないが唯一見せる激情といっても過言ではない強い瞳だ。
その火傷しそうな瞳を見て、マーモンは内心少しばかり狼狽していた。
――これは、相当な狸だ。
自分の事を棚に上げ、マーモンはをそう結論付けた。
少しばかり観察して見るのも面白そうだ、と唇を引き上げる。
瞬間――ゾワリ、と背中を駆け抜ける悪寒。
マーモンは背を伝う強烈な殺気に、思わず取り繕うことも忘れて振り返った。
「……おい、カス……こんなところで何してやがる?」
「ボ、ボス……」
「ザンザス」
ふ、との瞳がはじめてディスプレイ上から外される。
一瞬、ザンザスの視線との視線が絡まり、それから再びマーモンへと移った。
「いや……ミッション終了の報告をね」
マーモンは思い出した様に取り繕うと、そう言葉を紡いだ。
「嫌味を言いに来た、の間違いだろ」
フン、と皮肉気な笑みを漏らしながら、がそう口を挟む。
「まさか!そんなわけないよ」
「クッ……ハハッ」
うろたえるマーモンの姿を見ながら、は頬杖をついて小さく笑い声を上げる。
「――キミ、性格悪いね」
「お互い様」
一頻り笑った後、は既に興味を失せたかのように再び視線をディスプレイに向けた。
「用事、済んだなら帰れよ。見ての通りボスがオレに用があるみたいだからな」
「……ふん。解ったよ。じゃあ、ボス」
「とっとと行け。カス」
ザンザスは取り付く島もないといった様子で目線だけで威圧すると、マーモンは渋々了承の意を示す。
不意にふわり、とマーモンの周りに霧が立ち込めた瞬間、マーモンの姿はまるで空気に溶けるように掻き消えた。


 アルコル[かすかなもの]

「……で、どうした?ザンザスがオレの部屋まで来るなんて珍しい」
はそう言うと、その視線をザンザスに移した。
「守護者の事だ」
「――またその話か」
は眉根を寄せて溜息をつくと、困ったようにザンザスも見つめた。
「その話なら断ったはずだぜ」
にべもなく断るに、ザンザスは僅かにイラついたようにその眉を吊り上げる。
「あぁ?何が気にいらねぇ?」
「全部だ」
は身体ごとザンザスに向き直ると、そのひざの上で手を組んだ。
「守護者ってのは、言うなればザンザスをボスとした時のボンゴレの象徴だろう」
「あぁ」
「オレは表舞台に立つつもりはないし、第一『ボンゴレ』の為に働く気はない」
そう言うと、は射抜くほど真剣な瞳でザンザスの瞳を見つめた。
「オレは……ザンザス、お前のためだけに動く人間だ。その為には、守護者なんて肩書きは必要ねぇ」
「…………」
ザンザスの視線との視線が絡まる。
「オレはお前の補佐だ。影だ。表舞台での肩書きなんて邪魔なだけだ」
「……フン、そこまで覚悟してるなら、勝手にしろ」
眉根を寄せたまま荒い息を吐き、ザンザスは煌々と輝く月を見上げた。
「オレはマーモンがいいと思うけど」
「あぁ?……何でだ」
「一癖あるからな、退屈しねぇだろ」
ククッとは可笑しそうに笑う。
「……フン、いけすかねぇがな」
「――妬いてんのか?」
「……殺すぞ」
そう言いながら、ザンザスはの腕を強く引いた。
そのまま素早く噛みつくように唇を奪われる。
息も出来ないほどの口付けに、は脳内が甘く痺れるのを感じた。
やがて音を立てて唇を離されると、は乱れた息で、それでも不適に笑う。
「……やっぱ、妬いてるんじゃねぇか」
不機嫌そうに口を噤むザンザスを見つめ、はふっと破顔した。
「オレはお前のものなんだから……どこにもいかねぇよ」
「フン……勝手にしろ」



お題配布元:Reato Inesistente様 http://www3.to/seiya001


主人公アンケートで黒猫様より「XANXUS編の主人公が大好きです」という涙が出るほどありがたいコメントを頂いてしまい、舞い上がってフライングで書いたXANXUS編主人公短編です。
今回は連載で出てこなかったベルとマーモンも出して見ました。
最初のプロットと全然違う甘甘な方向に行ってしまいましたが、まあコレはコレでいいかと……(笑)。
XANXUS編の主人公は書いていて楽しいので、また短編でも書けたらいいなぁと思っています。
黒猫様、コメントありがとうございました!

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