COOL 〜Episode 3〜 <天邪鬼10のお題より> |
09. 可愛くない女 柔らかな午後の日差しがの頬に優しく降り注ぐ。 少し早歩き気味に歩いていけば、薄く汗の浮かぶこの暖かさが気持ち良い。 はううん、と伸びをすると、不意にすぐ横を無言で歩く兄の端正な横顔を見つめた。 これでこの兄さえいなければどれだけ気が休まることだろうかと、は思う。 「……なに」 「別に」 は恭弥の質問にそっけなく返すと、小さく溜息をついた。 なんで貴重な休日に自分はこんな所にいるのか。 眼前に近づく並中を視界から外しながら、は本日数度目かになる溜息を小さく漏らした。 「……委員長!さんも!御無事でしたか」 並中の門をくぐるとすぐ草壁が青い顔で出迎える。 心なしか顔が引きつっているようにも見えたが、それは二人の無事を確認すると安心したように僅かに緩んだ。 草壁の台詞に恭弥の視線が一瞬自分の命令――つまりの保護――を守れなかったことに対して咎める様に動いたが、それはの一睨みによって不本意ながらもかき消される。 変わりに極事務的な質問が恭弥の口をついた。 「……留守中変わりない?」 「はい、何も」 草壁は緊張を保ちながらもきっぱりとそう答える。 「そう」 雲雀は既にそのことに興味を無くしたかのように応接室へと歩を進める。 はしぶしぶとその後を続いた。 「……で?今日のアレ、なんだったわけ?」 応接室のソファにかけるなりすぐ、恭弥の鋭い視線がに突き刺さる。 有無を言わさぬようなその凄みに、それが自分に向けられたものでないにも拘らず草壁の胸中は穏やかではなかった。 表情を変えなかっただけでも賞賛に値するだろう。 しかし、当のは恭弥の向いのソファに全く臆した様子もなくどっかりと腰を落ち着かせた。 流石はこの兄にしてこの弟か、と草壁は背にかいた冷たい汗を感じながら、心の中で納得する。 「恭弥はどこまで知ってるの?」 恐怖などおくびにも出さず、は逆に恭弥に質問する。 「それが判らなきゃ、説明のしようもない」 「……キミが変な奴らに狙われてるって事くらいだよ」 恭弥は無表情のまま、しかしイラついたような視線でを見据える。 「ふぅん」 は空を見据えたまま一つ頷くと、瞬き3回分ほどの沈黙の後に草壁へと視線をやった。 恭弥はその意図を察知すると、同じくして草壁へと視線を投げる。 「少し外して」 「あ、はい。では委員長失礼します」 正直、草壁はこの張り詰めた空気の場から退散できることを安堵したことは言うまでもなかった。 「恭弥、オーパーツ<OOPARTS>って知ってる?」 草壁の後姿を見送った後、徐にはそう切り出した。 「知らない」 「Out of place artifacts. つまり、その時代では明らかにオーバーテクノロジーである人工物ってモノだね。いわゆる『宇宙考古学』っていうのを提唱してる民間学者が研究してる胡散臭いモノっていう風に知られてることが多いから、まともに話を聞くことはないだろうけど」 「で、それが何」 「ボクが研究してるのもそれ」 「……だから?」 腕を組んだまま、恭弥は冷ややかに質す。 「さっき、ボクは一般的には胡散臭いものっていう認識が浸透してるって言ったでしょ?」 「うん」 「恭弥はUFO信じる?」 「……ばかばかしいね」 「何で信じないの?」 「オーバーテクノロジーだからさ」 「なぜ、今時分の目の前にあるテクノロジーが最先端だと思う?」 僅かに口ごもった恭弥に、はしたり顔でにやりとした。 「眼に見えるものが全てじゃない。人に知られたくないものを隠すには、それ自体を隠すより、その存在自体を『ありえない』『うさんくさい』と思わせる方が上手く騙せるって言うわけ」 「……で、UFOが今回のことと何に関係するの」 「UFOは例えさ。つまり、ボクはボクの研究の中で、ちょっと凄い事を発見したんだよ。いわゆる『胡散臭い』部類の」 恭弥は未だに半信半疑といった様子での話を聞いている。 「同時期に、コレについて調べてる4人の研究チームがいたんだ。最初は自分のネットワークに繋いだPC上にその研究データを載せていたから、容易にデータを覗くことが出来たけど……有体に言えばハッキングだよ、ある日を境にプツっとそれが途切れた。それと同時に、ボクの秘密ラボに侵入者が入った形跡が残っててね」 「侵入者?」 恭弥の眉がぴくりとはねる。 「うん、ボクのPCが覗かれた。もちろんボクが研究データを放置しとくわけがないからデータは無事だけど」 そういうと、はCFカードを取り出して見せた。 「そのデータは全部ここに入ってる。まだそれは設計図の段階で製作にまでは到ってないんだ」 はそこまでを一気に言い終えると、小さく息を漏らした。 暖かかった陽が、僅かに傾きかけている。 「で、それはいったい何なの」 「……武器だよ。それも所謂マフィア連中に伝わる」 はCFカードをまじまじと眺めると、ふっと溜息を漏らした。 「流石におかしいと思って調べてみたら、これはとあるマフィアに伝わる代物で、そのとあるマフィア連中が血眼で捜してるのがこのデータだった」 「……で、そのマフィア連中っていうのがさっきの奴らってわけ?」 「うん」 「何でそんな大事なこと言わないの」 「言ったら巻き込むだろ。だいたい、こんなことがなきゃ信じなかったでしょ」 それに、とは再び心の中で溜息をついた。 まさか恭弥が箱の鍵――雲のリングを所持しているとは、よもやも想像していなかったのだ。 つまり箱のデータを研究しているの兄が偶然とはいえボンゴレ絡みとなれば、すでにそのボンゴレのネームブランドだけでの研究に大きな裏づけとなってしまう。 それは全くの偶然であるが、それを偶然と考える人間は少ないだろう。 既に事は「知らぬ、存ぜぬ」では済まなくなって来ていたのだ。 「僕を巻き込まないために黙ってたって言うの?」 「……そう言ってるだろ」 「心外だね。君に巻き込まれて潰されるほど僕はヤワじゃない」 「ほんっっとに可愛くないな、恭弥!」 「そんなこと言われてショックなのは女だけだよ」 10. たまには本音 しれっとした顔でそう言われ、は思わず脱力した。 既に怒る気力もない。 とりあえずの危機は脱したのだ。 今のジェッソファミリーには有能な指揮官もプランナーも居ない。 本格的にこの件にボンゴレが絡んできたと判れば、暫くは手を出してこないだろう。 ボンゴレの名で面倒なことになったが、ボンゴレの名で救われもしたのだ。 少し前に遇った妙に堂々とした赤ん坊の予期した通り、こうなってしまった今はボンゴレの一員として認識されているはずだ。 の胸中は複雑だった。 ……クシュン! 複雑な胸中とは裏腹に、予期せぬコミカルなくしゃみがを襲った。 いつの間にか首筋にひんやりと冷たい風が吹きつけている。 「……ちょっと恭弥!なんでここでもクーラー入れてるわけ?!」 「解らないの?暑いからだよ」 「暑いわけないでしょ!もう陽も落ちる頃なのに!」 は恭弥の横にあるリモコンに手を伸ばすと、素早く恭弥はそのリモコンを取り上げる」 「駄目」 「駄目じゃない!貸してよ!」 の噛み付かんばかりの勢いに、恭弥は表情を変えぬまま小さく息をつく。 「……そんなに寒ければこっちにおいでよ」 そういいながら恭弥はスイっと自分の横を指差した。 「……は?」 「だから、ここ。くっついてれば暖かいでしょ」 まさか……。 は行き着いてしまった自らの思考に凍りついたように動きを止める。 「まさか恭弥……その為だけにクーラーつけたの……?」 搾り出したようなの声に、恭弥は僅かに眉を顰めるとぽつりと漏らす。 「悪い?」 瞬間、の顔が熟れたトマトのように赤く染まる。 「わ……悪いに決まってるだろ、馬鹿恭弥!!」 薄闇の迫る校舎に、割れんばかりのの声が響き渡った。 THE END お題配布元「冤罪」様 http://love.meganebu.com/~rosequaiz/ * * * * * * 後書き 主人公設定アンケート第1位<雲雀恭弥弟設定>やっとこ完結です。 最後の描写が書きたかったが為に、えらく長い作品になってしまいました(-_-;) 最初はただの兄弟じゃれあいの2話完結SSを書くつもりだったのに、書いていくうちにどんどんと大風呂敷を広げてしまい、既に2話の時点でプロットから大幅にずれていました。 涼澤は勝気少年が大好きで、もうは本当に書きやすいこと書きやすいこと。 また短編で再登場するかも知れません。 その時は温かい目で見守ってやって下さい<(_ _)> ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました! 朝比奈歩 |
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