のち所により 山本祭 第二弾  

薄ぼんやりとした空から、はらはらと雨粒が落ちる。
それは途切れることなく続き、まるでグラウンドがけぶった様に見えた。
「ひゃー冷てぇ!」
がらりと教室のドアが開き、言葉とは裏腹に満面の笑顔を浮かべた山本武が室内に滑り込んできた。
「降られたか?」
突如かけられた声に、武は少し驚いた様子で教室をぐるりと眺める。
「……お、?まだ残ってたのか。まぁ、突然だったから仕方ないのな」
そういうと、山本はわしゃわしゃと鞄から取り出した真っ白なタオルで髪を拭いた。
「で、部活は中止か?」
「そう。全員びしょ濡れだからな」
「確かにスポーツマンが身体冷やしちゃまずいな。……で、それなのになんでお前は制服まで濡れてるんだ」
「それがな、傘を教室に忘れちまって」
そう言って、武はその端整な顔に苦笑を浮かべて頭をかいた。
「ピッチャーが肩冷やすような事すんな、馬鹿」
「ん……返す言葉ないな。でもまあ、その代わりにに逢えたし、たまには雨に降られるのも悪くは無いな……なんてな」
「……」
武の笑顔に、は再び靄のかかるグラウンドを見つめる。
「雨……オレはあんまり好きじゃない」
はそういうと、その長い睫毛を瞬かせる。
「冷たいし、暗いし、過ごしにくいし、傘は邪魔だし」
こつり、と頬を机に載せ、暗い空を眺める。
はらはらと落ちる雨粒が、とめどなく溢れる涙のようにも見えた。
「なんか、空全体が悲しみで覆われてる感じ」
「んー、らしくねーな」
いつの間にか隣に腰掛けていた武が、ふわりとの髪を撫でる。
「らしくない?」
「ああ」
そういうと、武は優しく髪を撫でながら窓の外を眺めた。
は、色んな物のいい所みつける天才だろ」
「……」
「オレは雨、結構好きだぜ。雨が降った後の空気は綺麗だし、空も、星も綺麗だ。夕焼けも綺麗だし、虹が出る事だってある。風が気持ちいいし、樹や花にも元気が出る。いろんな嫌なもの、洗い流してくれる」
そういうと、武はふんわりと笑顔を作る。
「……そっか」
「そーだぜ!」
武の長い指がさらりとした絹糸のような髪を撫でると、は擽ったそうに眼を細めた。
「……雨って、武みたいだな。武がいると空気は綺麗、空も星も、夕焼けも綺麗に見える。花や樹だけじゃなくてオレも元気が出る。色んな嫌な事、洗い流してくれる。」
不意に視線を上げ、は武の瞳を見つめた。
「そう思えば、オレも雨を好きになれそうだ」
柔らかい、それでも強い意志を感じるの視線に武の心臓はひどく跳ね上がる。
「……それって、オレの事スキって事か?」
「うん」
の髪撫でる武の大きな手が、ぎこちなく止まる。
ほんの僅か動揺したように視線をさまよわせると、武は小さく溜息をついた。
「本当、お前ってズルイのな」
「それはお互い様」
視線が絡まると、ふと、笑いがこみ上げてくる。
「あぁ、負けた。つーか、お前には一生勝てる気がしねー」
「それも、お互い様だ」
武の長い指が、の頬を伝う。
「もう一つ、雨の好きな所あるのな」
「なんだ?」
「好きなヤツと相合傘して帰れる事」
ニカッと武は悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「ん……その意見にはオレも賛成だ」
「ははっそういうわけで、そろそろ帰ろうぜ」
「そうだな。じゃ、相合傘でもして帰るか」

雨の日も風の日も、君がいればそれが幸せ。

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