100%

「ん?なぁなぁ、なにそれ?新作?」
自主練習と称してフットサル場で汗を流した後の休憩の時、一馬が目ざとく僕の手元を覗き込んでくる。
僕が手に持っているのは『ふんわりリンゴ』というちょっとかわいい名前の新作リンゴジュースだ。
確か僕たちと同じ年のモデルの女の子(凄く可愛いことで有名)がCMをやる予定の新作ジュースだと聞いている。
実はまだ発売前のこのジュース。
なぜ僕がそんなものを手にしているかというと……ただ単にモニターをさせられてるだけなのだ。
僕の叔父は大手飲料メーカーの開発部に勤めていて、その関係からよく開発中のジュースなどのモニターを頼まれている。
今回も同じで、この『ふんわりリンゴ』という新作ジュースのモニターをやらされているのだ。
「そうだよ。再来月に発売させる予定みたいだけど……。一馬リンゴジュース好きだよね?」
聞くまでも無く、一馬がリンゴジュース好きだということは知っているけれど。
僕の言葉に、一馬は面白いほどの勢いで頷く。
「好き!超好き!」
まるで犬みたいに一馬が身を乗り出すのを見て、僕は思わず吹き出す。
相変わらず、一馬ってかわいいなー……。
「だろうね。よければ試飲してくれる?叔父さんの会社の新作なんだけど」
僕はそういうと手に持っていたリンゴジュースを一馬に手渡し、ミニクーラーボックスからもう一本自分の分を取り出した。
「うわ!マジ?スゲー嬉しい!サンキュー♪」
満面の笑みでジュースを受け取る一馬。
なんだかこっちまで嬉しくなりそうなかおだなぁ。
ジュースは……うん、まだ冷えてる。
僕は勢い良くプルトップを引くと、冷えた液体を口の中に流し込む。
運動をしてほてった身体には嬉しい冷たさだ。
「どう?」
僕はジュースを一口飲むと、隣で難しい顔で考え込んでいる一馬に声をかける。
「うーん……」
「……?不味い?」
一馬のリンゴジュース好きは割と有名だし、飲んだ種類も数知れないというのでモニターには適役だと思ったから頼んだけど……もしかして不発?
僕は、結構いけると思ったのだけど。
「一馬?」
「なぁ、これ100%?」
唐突に、一馬が聞く。
「そ、そうだと思うよ?」
「そっかぁ……おかしいな」
「何か、気が付いたことでもあるの?」
「うん。おいしすぎる」
「……は?」
「だから、おいしすぎるんだって。リンゴジュースの100%って甘すぎて渋さを感じるか、甘くなさ過ぎて酸っぱいっていうのが多いだろ?だけどこれはなんていうか……軽いのに味がしっかりしてるんだよなぁ……」
……さすが一馬、某料理漫画の審査員みたいだね。
「だから俺、100%っていっても濃縮還元で添加物を加えたのかと思った」
「いや、それは無いと思う。叔父さん、そういうの嫌いだから」
確か今回のコンセプトは『天然のリンゴを丸ごと食べたようなジュース』っていうのだった筈だったな。
「へー、こだわってるんだなの叔父さん。いいことだ」
一馬が目を輝かせる。
「聞いた話だと、日本産のリンゴを各地から取り寄せてブレンドしたらしいよ。濃縮還元だとどうしても熱処理する関係で味が落ちるから果汁を100%のまま取り寄せてるみたい。更に、普段口にしてるリンゴの味を再現する為に、日本産のリンゴの種類に限定してブレンドしたんだって」
「なるほどなぁ……確かに、名前のとおり『ふんわり』したリンゴジュースだったよ」
一馬が残り少なくなったジュースを勿体無さそうに、それでも一気に飲み干す。
「……ちえ、少ないよなぁ」
確かに運動後の350mlは少ないと感じるよね。
「よかったら、これ飲んで。まだ半分くらいは残ってるよ」
僕は自分が手に持っていた缶を、一馬に差し出す。
「え?だってのじゃん……」
「別にいいよ。僕、昼のお茶も残ってるし」
「っていうか……でも……」
突然一馬が顔を赤くする。
さっきみたいに無邪気に喜ぶ姿を想像してたから、ちょっと驚き。
そんなに気にしなくていいのに。
「あ、人の飲みかけは嫌?」
「い、いやのなら……ってそうじゃなくてっ」
一馬は一瞬ためらった後、僕の差し出した缶を受け取って一気にジュースを飲み干した。
「さ、サンキュー……
「どうしたの?耳まで赤いよ?」
「だ、大丈夫だよっ。いや、マジでうまかった!ご馳走様っ」
一馬はそういうと、そそくさとカバンを持って立ち上がる。
「一馬?」
「も、もう7時だし、そろそろ帰ろうぜ、!」
「え?あ、うん、待ってよ一馬!」


後日、結人から『最近一馬が鏡の前で口を見てニヤニヤしてる』という情報を聞かされたけれど、僕には意味が全然解らなかった……。


* * * * *

歩:……へぇ、これまた純愛な。
涼:純愛好きですし。
歩:BGMに河村隆一がかかってたからじゃなくて?
涼:確かに河村隆一はかかってたけど、純愛が好きなことに変わりはないよ〜 f ( ^-^;)
歩:ただ書けなかったからじゃなくて?
涼:ぐ……。ストイックなのが好きなんです……(汗)。
歩:はいはい。、ここまで読んでくれてありがとう!懲りずに遊びに来てね!
涼:また来てくださいね〜 f ( ^-^;)

ブラウザのバックでお戻りください。