BROTHERS! Ver. S.H

「……何をキョロキョロしてんだよ、藤代」
「へ?」
練習をそっちのけで辺りを見回していると、突如として三上先輩に咎められ、俺は思わず肩を跳ね上げた。
……まったく心臓に悪いよな、この人。
「そんなに珍しいもんでも、傍を通りかかったのか?そりゃ空飛ぶ人間か?カレー好きのムササビか?全身タイツの渋沢か?」
「はぁ?何いってんすか?俺、ちょっと気になることがあっただけですよ……」
――三上先輩って時々解らない……。
俺は肩をすくめると、殺気立ちながら後ろに佇んでいる三上先輩を振り返る。
なんか苛立ってるよなぁ……こういうときの先輩には逆らわないほうが吉だ、と俺の勘が囁いている。
唯でさえ、何故だか虐めの対象となっている俺だ。
機嫌の悪い日はさらりとやり過ごすのがベストな判断だ。
「だいたい、全身タイツのキャプテン……見たいんですか?三上先輩」
……と、いうことは解っていたはずなのに、なんで俺はこう突っ込みを入れてるんだ!
これがあるからいじめられやすいんだろうね、俺。
解ってはいるんだけどさ……。
「馬鹿か、てめーは!お前の脳味噌に合わせた発想を並べてやっただけだろ。文句があるなら気合入れろ」
案の定三上先輩は額に血管を浮き立たせると、じりじりと俺のほうへ詰め寄ってくる。
「おまえには!サッカー部としての!心構えがたりないようだな!」
「そ、そんなことありませんよっ!ああ、ほらキャプテンが見てますって!あ!いっいてててて……!痛いです!先輩〜!」
「アホか、お前!痛くしてるんだから、痛くて当たり前だろうが!」
両耳を思いっきり引っ張られた状態で、俺は半ば引きずられるようにグラウンドへと引き戻される。
三上先輩の馬鹿力!
「ああ?何か言ったか!?」
心の声まで聞こえてんですか!あんたには!
俺は頬を引きつらせると、笑顔で両手を振るって否定を表した。
「いえ!なんも言ってませんよ、俺!」
「……お前、今『手を離せ馬鹿野郎!』とか何とかいっただろ!?」
「いってませんてば〜!」
俺は自分の心を読まれたのではないことに少しだけ胸をなでおろす。
……にしても、ピンチには変わりは無いんだよな。
と、いうか、先輩はもしかして俺をいじめる口実を作るために、ワザとそう言ってるんじゃないだろうな!?
いや……三上先輩ならばありえるかもしれない……。
俺は顔面から血の気のひく音を感じる。
「嘘つけ!俺には確かに聞こえ……!」
ドゴッ!
瞬間、凄まじい叩打音が俺の耳の飛び込んできて、投げ出されるように耳を離される。
「……って〜〜〜!!」
三上先輩は後頭部を抑えるようにしてグラウンドにくず折れる。
その背後に、勢いを失ったサッカーボールが仕事は終わった、とでもいいたげな勢いで地面に弾んだ。
どうやらこのサッカーボールが先輩の頭に炸裂して、俺を自由の身にしてくれたらしい。
……練習中のミス……だとしても、とんでもないことを、とんでもない人にやっちゃったよなぁ……。
俺は『どこのどなたかわかりませんが、俺の代わりにいじめられてください』と、心の中で合掌すると、この好機を逃さないようソロリとその場を離れようとした……次の瞬間俺の耳に飛び込んできた声が、俺の足を硬直させる前は。
「誠二兄ちゃんを離せって言ったの、聞かないから悪いんだぜ!」
「……んだとぉ、誰だてめーは!!」
まさに、怒り頂点な三上先輩は、食って掛かるように背後から振ってきた挑戦的な声に振り返った。
!?」
俺は彼が答えるより早く素っ頓狂な声で彼の名を呼ぶと、……俺の弟のところへと走り寄った。
「お前、何でこんなところにいるんだよ!?今日は入学試験のはずだろ!?」
「もう済んだよ、誠二兄ちゃん!それより、耳平気?」
小首をかしげて、大きな瞳をぱちりと瞬く。
我が弟ながらかわいいことを聞いてくるなぁ……。
俺は緩んだ頬を戻すのも忘れて、の頭をなでた。
「俺のことはいいの!それよりお前は?」
「ばっちりでしょ。入部試験もパスしたしね」
にっこりとブイサインを出すの髪をなでながら、俺はつい禁句を口走ってしまう。
「そうだなぁ、ちょっと見ないうちに凄くコントロールうまくなったよな!あの位置から三上先輩の頭にクリーンヒットさせる……」
突如として現れる殺気。
「……ほぉ、こいつはお前の兄弟か……」
……忘れていた。
「あ、こいつを攻めないで下さいね!こいつは俺のために……」
「たりめーだボケ!いくら俺でも女なんか殴るか!」
凄い剣幕で怒鳴りつける先輩。
怒りをぶつけるところがなくて、イライラしてるんだな……。
「うわっ!いや、違いますよ!こいつは妹じゃなくて弟……」
「……なに?」
三上先輩の表情が変わる。
「……お前、男か?」
「男だよ!来年からはここのサッカー部に入るんだからな!」
「………」
三上先輩の形のよい眉根が寄せられる。
うっわー……今、先輩が何考えてるかがよくわかるな。
「似てねぇな……お前達」
「……よく、言われます」
「認めんなよ!誠二兄ちゃん!」
は必死になって俺のシャツを掴む。
確かに、似てないよなぁ……。
俺はどちらかというと父親似で、男性的な顔立ちをしているが、は母親似で女性的な顔立ちをしている、俗に言う美少年という奴だ。
「小せぇし」
「チビっていうな!」
「なんだよ、本当のことだろ。ちーび!」
「うるさいな!ちびっていうなって言ってるだろ!」
は眉を吊り上げて三上先輩にダダッコパンチを繰り出している。
「ははは、痛くも痒くもねぇよ。ちび」
……あの三上先輩があんなことされて笑ってるとは……我が弟ながら凄いな。
「あー、でもこの単純な所はお前そっくりだな」
「誠二兄ちゃんを苛めるなってば!」
「いじめてねぇよ。藤代苛めるより、お前で遊んだほうが面白そうだ」
「だんだよそれ!離せってば、ばかやろー!」
――むか。
「だめだよ!先輩にははあげないっす!」
先輩の手からを取り返す。
は俺の可愛い弟なの!先輩のじゃないの!
「何だよ藤代。お前はもう用なし、払い下げ、島流し」
「島流しって何ですか!」
「辞書で調べろ」
「そんなこと聞いてるんじゃないです!」
「……お前らいいかげんにしておけ。そろそろ監督達も戻ってくるぞ」
「げ、渋沢!」
「わ、キャプテン!」
「彼だって苦しがっているじゃないか。……大丈夫か?」
「……あ、はい。平気です」
ほにゃー、という表記が一番しっくり来る顔をして、が答える。
「……ち、渋沢の奴一番おいしいとこ持ってきやがって……」
「ははは、なんのことだ?」
「ちょ……二人とも、何の話ですか!?」
もしかして、もしかして、もしかしなくても……の奴、二人に気に入られてる?!
もっとも、この二人は今年で卒業なんだし……何にもされない……よな?の奴。
「もしよければ、学校が休みに入ったらこちらに練習にきても構わないよ。君も藤代と一緒に早く練習したいだろう?監督には許可をもらっておくから」
「え、いいの!?」
「構わないよ、なぁ三上」
「ああ、かまわねーさ」
「やったー!」
だまされちゃ駄目だって、
「これで誠二兄ちゃんと一緒にサッカーができるね!」
「そうだな!」
なに全快の笑顔につられて返事してるんだ、俺!
こうなったら、俺自身の力でを守るしかない……。
たったの2ヶ月じゃないか、大丈夫……!
「がんばろうね!誠二兄ちゃん!」
「おう、がんばるさ……!」


「……無駄だと思うけどね」
ぽそりとつぶやいた竹巳の一言を、俺は聞こえない振りをすることにした……。




* * * * *

自他共に認める兄弟好き涼澤が、何故今まで『シスコンドリーム』なんて大人しくしてたのか、不思議な気がする今日この頃。どうしてブラコンドリームしなかったんでしょ。
と、いうわけで意気揚揚とはじめたブラコンドリームですが……すみません……。これじゃあ三上ドリームだろ、自分。しかも、ただのギャグに成り下がってるし……。クオリティー低いです。本当に済みません……。
今後は……精進します(泣)。

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