プロローグ

「はぁ……」
僕は盛大な溜息をつくと、包帯でぐるぐる巻きにされた挙句、固定布によって首から吊り下げられた左手を見た。
――名誉の負傷、ではある。
まぁ、どこでもよくある話しで。
ボールを追って飛び出した子供を救おうと彼の後を追うようにして道へ飛び出した僕は、その子供を掻っ攫いつつギリギリのところで車の突進はかわしたものの、着地に失敗した。
子供は五体満足であったが、僕がこの名誉の負傷を負った敗因は自分にある。
瞬間的に、足にかかる着地の衝撃を和らげようと左手をついたのがまずかったらしい。
子供の体重+自分の体重+二人分の勢いを左手一本で支えるのはさすがに無理だったようで、僕の左手の骨にはしっかりと亀裂が入ってしまった。
もっとも、その行為によって大切な二本の足だけはかすり傷ですんだのだけれど。
僕はこう見えてもサッカーをしている。
僕がサッカークラブチームのビブロユース「川崎ロッサ」に在籍してもう6年目。
自分でも結構センスはあると思うし、事実去年はU-14にも選ばれていたりした。
僕はサッカーをしている時が一番すきで。
サッカーをしている瞬間は何もかもを忘れて、がむしゃらに没頭できる。
何にも代えがたい、僕にとって最高の瞬間。
だから……サッカーができなくなるのは絶対に嫌で……そのためには左手にひびが入っただけで済んで、良かったと思っているのは正直な気持ちだけれど。
……でも、だからといって、何もこんな時期に怪我することは無いと思う。
僕って本当に馬鹿。
怪我をする数日前に「東京選抜」合格を申し受けたところなのに。
正直、その翌日に監督に連絡を入れたときは、ちょっとだけ怖かった。
『もう、こなくていい』と合格取り消しになる可能性が、低くは無かったから。
それでも、この仰々しい包帯は隠しようもないし、どうしたっていつかはバレることだと思い、思い切ってダイヤルを回した。
けれど、監督(僕はこのときすでに尾花沢監督から西園寺監督に交代することを聞かされていた)はこっちが拍子抜けするようなあっけらかんとした声で、<完治するまでの練習禁止>ということ<メンバーからは外さないから安心するように>ということ<しっかり治すこと>を命令し、ひとこと「お大事に」と見舞いの言葉を添えて会話を終了させた。
その日から、僕はこの全治1ヶ月の怪我との戦いの日々が2週間つづけている。
未だに仰々しい包帯は取れない。
医者の話では来週辺りギブスが取れるはずなんだけど。
ギブスが取れれば多少動けるようになるだろうから、それまでの我慢なんだとは思うんだけど……。
後1週間が……こんなに長く感じるとは。
僕は右手でフェンスにしがみつくと、再び「はぁ〜」と盛大な溜息をついた。

* * * * *

だからといって……。
わざわざ他校のグラウンドに進入し、木の陰から彼らの練習に見入ってしまう自分に呆れる。
メンバーなのだから、堂々と中に入って見学すればいいとは思う。
思うけど……なんだかそれも恥ずかしくて、グラウンドの影からぼーっと見ることに集中してしまう。
だって……この仰々しい包帯を見せつけるのもなんだか嫌だし(何か言われそうで)、それに、なにより近くにいたらきっと練習に混ざりたくなってしまうだろう。
そんなのも不毛だし。
いや、今の状態だってかなり不毛なのだけれど。
「……帰ろっかな」
僕はキュっと指先のフェンスを握り締めると、ふうっと肩を落とす。
我ながら情けないと頭を振って踵を返そうとした矢先、聴きなれた声が僕の頭の上に振ってきた。
「……?」
「え、英士!?」
僕がはじかれたように振り返ると、そこには長年の友人である郭英士が不可解なものを見るような目つきで立っていた。
「……なにしてるの、こんな所で」
「あ……えーと……その……見学を……」
英士の言う質問はもっともだ、きっと僕が逆の立場でもそう言っただろう。
「見学?どうしてこんな所で?中に入ればいいでしょ。部外者じゃないんだから」
……とても正論。
「だって……そ、そうだよ!英士こそこんな所で何を……」
僕が返答に困って(だって「恥ずかしい」なんて言おうものならきっと呆れられるだろうし)話題を無理やり変えようとしたとき、都合よく僕の声をかき消すような声で第二陣がやってくる。
「おーい!英士ってば!急にどこにいっちゃうんだよっ!まったく人のこと考えろよなー」
そう言いながらジュースの袋を二つ抱えて、これまた長年の友人である若菜結人がこちらへと向かってくるのが見える。
「だいたいお前さぁ、向こうから何が見えたのか知らないけど……って!?」
さも驚いたように、結人があんぐり口をあけて大声を上げる。
「ゆ、結人!声が大きい……!」
僕は必死で結人の口を手で押さえると、木の陰へ引っ張り込む。
「な、なにしてるんだよー、こんな所で」
さっきの考え訂正。
都合よくなんか無い、むしろ事が大きくなりそうだ。
「べ、別に何も……ただ見学を……」
「中ですればいいじゃん」
――はい、もっともです……。
僕は観念したように「はぁ〜」と本日三度目の溜息をついた。
「……一緒にいると……僕も参加したくなっちゃうでしょ。だから、駄目」
僕はぽりぽりと頭を掻くと、横目で練習しているメンバーをみる。
「でも……家にいてもなんだか気になっちゃってさ。見るだけでも気が紛れれば……と思ったんだけどね」
「そっかぁ」
僕の言葉を聞いて、結人が残念そうに言葉を返す。
「後二週間だったっけ?」
「うん」
「俺さー、がいないとつまんないよ。早く治ればいいのに」
「本当。同感。異議無し」
「……あと二週間したら好きなだけ練習できるんでしょ。我慢しなきゃだめだよ」
「……はーい」
僕は苦笑混じりに返事をすると、肩をすくめる。
ホント、英士はいつまでたっても僕の「兄貴」役だよなぁ……。
「……あ、二人とも買い出し班だったんだよね。長話してごめん」
「いいんじゃない?」
「問題なし」
二人が同時に答えてくれる。
「サンキュ。……僕、そろそろ帰るね」
僕はゆっくり背伸びすると、踵を返して手を振りながらゆっくりグラウンドを後にする。
「……!」
背中越しにかけられる声。
「俺たち、のことちゃんと待ってるから。だからしっかり直して戻ってこいよ!」
僕は返事をする代わりに、右手の親指を立てて笑う。
二週間たったら……フィールド出会おうという印に。

* * * * *

歩:……どこが、ドリームなのさ?(怒)。
涼:ど、どこがと言われると……(汗)。
歩:こんなんじゃ読んでくれたに後悔させちゃうよ?
涼:はう……。ごめんなさいさん(汗)。本当は、もう少しラブにする予定だったんだけど……(汗)。
歩:だけど?(怒)。
涼:い、いやね?最初はプロローグだし、男の子だし、ちょっと設定を語らせる必要があると思ったの(汗)。
歩:その割には決めた設定の1/3も出してないよね。
涼:それはおいおい……プロローグなのに異様に長いです(汗)。でもこれから少しずつラブにしてゆく予定ですので、どうぞまた見捨てずにご来場ください〜f ( ^-^;)
歩:そうそう、殊勝にお願いしなさい。さん、よければまた付き合ってやってくださいね!読んでくれてありがとう!

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