RED HOT CILI MY DEAR

ひんやりとした風が、風呂上りの上気した俺の頬を撫で上げる。
涼しかった風か冷たい風に変わったのはいつごろだっただろう。
俺は窓に手をかけると、雨上がりの澄んだ夜空を見上げた。
雲ひとつ見当たらない夜空。
それでも、都会の空はどんよりとしたグレーの色をしている。
俺はひとつため息をついた。
思い出す度に、痒いところがかけない様なもどかしさに胸がざわざわする。

昼真の論議は煮え切らないままに打ち切られた。
でも、もしかしたらそれがよかったのかもしれない。
あのまま話を続けていたら、余計なことまで言ってしまいそうだったから。
それにしても……。
「……なんだよ、一馬のやつ平気な顔しちゃってさ」
全然気にしてません、みたいな顔しちゃって。
なんか、あせってる俺が馬鹿みたいじゃん?
て、いうか、実際俺自身だって何であせってるのかなんてわからないんだけどさ。
一馬の言うことはもっともだ。
友達同士仲良くすることが悪いわけじゃないし、喧嘩していた友達同士が仲直りすることだって喜ばしいことだよな。
だから、俺は俺自身なんでそんなにそれが気になることなのかって事はわからないんだ。
でもなんだかモヤモヤする。
胸の辺りがムカムカして、喉が詰まっちゃう感じ。
無性に悔しくて堪らない。
試合に負けたときだとか、テストで良い点取れなかった時とかの悔しさとはちょっと違う、変な気持ち。
「あーもう、わけわかんねぇよ!」
俺はかぶっていたタオルで乱暴に髪を拭くと、それをベッドに投げ捨てた。
ヘアメイクに欠かせないへアケアをスボラにすることはまず無い俺だけれど、いまはそんな事も気にしていられない。
いつ頃からだっただろう、こんなもやもやした気持ちが溢れ出したのは。
あの二人が仲良くなっていくのを、指を銜えて見ていなくてはならなくなったあの日から?
解らない。
こんな事を思う自分が凄く嫌だ。
なんだか心にやましい気持ちがあるようで、自己嫌悪に陥いってしまう。
この気持ちは。
この気持ちの正体は何?

* * * * *

ブルルルルル……ブルルルルル……
「――?」
俺の思考を途切れさせたのは、突然唸りだした俺の携帯電話だった。
ディスプレイに映し出された名前は「 」。
「……?!」
俺はベッドの脇の携帯を慌てて取り上げると、震える指で通話ボタンを押す。
「もしもし!?」
俺の声、震えてる?
うわ、カッコ悪りぃ……。
『もしもし、結人?僕、だけど……今平気?』
電話の先から聞こえるの声は、いつもと変わらずに優しくて穏やかだ。
それがなんだか嬉しくて、俺の声はついつい弾む。
「全然平気だよ。んで、なに?どうかしたのか?」
『うん、昼間の事なんだけど……一馬、急に先に帰っちゃったでしょ?何かあったの?俺の声も聞こえてなかったみたいだし、結人ならなにか聞いてるんじゃないかなと思って』
「……なんだ」
一馬のことか。
『え?』
「いや、なんでもねーよ」
急激にしぼんでいく俺の心。
ほんっと、単純。
『結人?』
「なんでもないって。えーと、一馬のことだけどさ、アレ俺が悪いの。俺がいつもみたいに一馬をからかって怒らせちゃったんだよ。」
電話口だからできる、嘘。
今の俺の顔を見られたら一発で嘘だってばれちゃうよな、やっぱ。
「だから、が心配する事ないって。明日にでも俺謝っとく」
精一杯明るい声で、そう言った。
『そっか』
「そーそー」
嘘をついたのは、一馬の心配をにさせたくなかったから?
俺って本当に情けない。
俺、の傍に居る資格ないかもな。
『……結人は優しいよね』
「え?」
『俺に余計な心配かけさせたくなくて、そう言ってくれてるんでしょ?』
「え……?」
『ありがとう、結人』
……」
思いがけない言葉に、俺は言葉を失う。
どうしていつも、お前はそう微笑んでいられるんだろう。
『僕、いつも結人に甘えてばっかりだなぁ。たまにはお返ししたいのに』
電話の向こうで控えめに笑うの声が聞こえる。
「じゃ……じゃあさ、今度の髪メイクさせてよ!」
『え?そんなのでいいの?』
「うん、俺一度の髪メイクしたかったんだよね」
きっとこれは神様が与えてくれたチャンスだから。
棚から牡丹餅だろうがなんだろうが、絶対掴むから。
『うん、じゃあお願いする』
「約束な!」
二人だけの約束。
皆の人気者のお前だから、独り占めするのは大変だろうけど。
大好きだって心は負けないから。

だから 今は ふたりだけの 約束。

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