TWINS ! Ver. Eishi KAKU 〜ラブレターは誰の手に?〜

「あ、あのっ!これ、受け取ってください!」
いつものように選抜の練習を終え自宅近郊の駅の改札を出た時、突如として顔を真っ赤にした女の子が現れた。
「………」
まぁ、いつものことだ。
自慢じゃないがこのての展開には慣れている。
俺はその差し出された手紙とプレゼントの包みを受け取り、儀礼的な笑顔を返した。
こういう場合下手に断ると話の展開がややこしくなることを知っているから、できるだけ希望をもたせないように、それでも彼女らの神経を逆なでしないように適当な笑顔を返すのがベスト。
「ありがとう」
俺がそう言って彼女に笑顔を返すと、彼女は赤い頬を更に紅くして走り去った。
その背中を見送って、俺は微かに溜息をつく。
彼女たちの恋心は本当の物ではない。
まるでアイドルを見るように俺たちを見る。
勿論、俺たちがアイドルのように格好いいとかそういうことが言いたいのではなくて、俺達はアイドルのように手が届かないほど遠い存在でもなく、かといって級友ほど近い存在でもない。
都合のいい観賞対象というわけだろう。
だから、彼女達は俺たちに自分の気持ちを知って貰ったり、プレゼントを渡したりするだけで十分に満足してしまう。
だから、そう言った彼女らの気持ちを汲んでやれば、大抵の場合これといった実害は俺には出ないのだ。
そういった事をここ数年で学んでいた俺は、自然と儀礼的な笑顔を身につけることができた。
笑顔で手紙やプレゼントを受け取って事が収まるのなら、安い物だ。
俺は貰ったスカイブルーの包みを横目で眺めた。
なかなかに趣味の良いラッピング。
恐らく彼女が包んだ物だろう、包みに社名のロゴが見当たらない。
俺は片手でその包みを抱えるように持ち替えると、駅の出口へと足を進めた。
と、不意にパサリと紙が落ちる音が微かに響く。
「……っと……」
――手紙が挟んであったのか。
俺は屈んで足元に落ちた淡い緑の封筒を拾う。
「……ん?」
瞬間的にざわり、と肌が泡立つのを感じた。
その封筒に書かれていた宛名は――「郭 様」
に?
俺は思わず眉を顰めると、その封筒を握り締めた。
確かに郊外のテニススクールに通うは、良くこの駅を利用している。
対して俺は月に一度ある選抜の練習の時にこの駅を利用するだけだ。
のファンならここを通る俺をと間違えたっておかしくは無い。
何故なら……俺とは双子の兄弟なのだから。
更に言うならば一卵性双生児の俺たち。
DNAは全く同じ、鑑定すれば「99%同一人物」との結果が出る自然界のクローン。
間違えたとしても不思議ではない。

「あ、英士じゃん!ヨ――ンサ!」
突然俺の思考を打ち切るように、賑やかな声が後方から響いた。
俺は軽く吐息をつくと、大袈裟なほどに手を振りながら改札をすべり出る片割れ……の姿を眺めた。
「英士がここにいるなんて珍しー!あ、選抜の練習だったの?」
大声をあげながら嬉しそうに俺に近づく弟に、俺は眉を顰めて遠慮の無い視線を送る。
乗車券売り場を通り行く人からクスクスと小さく笑いが起こる。
言葉にして表現するならば「微笑ましい」とか「可愛らしい」といったところか。
「煩いよ、。そんな大声出さなくても聞こえるよ」
「なんだよー、俺が声かけるまで気がつかなかったくせに!」
「後ろに目があるわけじゃないんだから、当然でしょ」
「英士なら後ろに目があってもおかしくなさそう」
「……
俺はきつく眉根を寄せると、の顔をにらむ。
しかし、当のは全く違う興味の対象を見つけ、全く臆すること無くはしゃぎ始めた。
こいつはいつだって、スルリと俺の本気をかわす。
腹が立つったら、ないね。
「うわー、英士またプレゼント貰ったの?相変わらず凄いよなぁ!」
「………」
にっこりと満面の笑顔でそう言ったの顔を見て、俺の思考はまた数分前に引きずり戻される。
俺は無言でそのプレゼントをの手に押し付けた。
「……なんだよ?英士のプレゼントなんだから、自分で持てよー!」
はそう言って不機嫌そうに唇を尖らせて俺に抗議をする。
「……お前にだよ、それ」
俺は改札に背を向けて歩き出しながらそう呟く。
「へ?俺に?なんで英士が持ってるの?」
トコトコと俺の後をついて歩きながら、が不思議そうにそう質した。
「……間違えたんでしょ。俺とを」
「――あっ、それで英士機嫌が悪かったんだ?」
「………」
「なーんだ、そっか!でも安心しなよ、英士のがいい男だからさ!」
「同じ顔して何を言うんだか」

イライラしたのは俺がと間違えられたから?
がモテるのを僻んだから?

それとも……を見ている子がいることを見せ付けられたから?

「なぁ見て見て!すっげーいい色のマフラー!」
の声に、ちらりと横目で盗み見る。
黒とブルーのセンスのいいマフラー。
に良く似合っている。
を見ているのは、俺だけじゃ、ない。
ズキンと胸が痛んだ。
「えーいしっ!」
「……!?」
不意に首にふわりとした感触を感じて、俺はいつのまにか並んでいたを振り返った。
「ほら、もっとくっついてよ英士!」
「な……なにしてるの」
「だって割と長いマフラーだったから、二人で巻けるかなーと思ってさ」
いつもよりも近い位置でみたの笑顔に、思わず溜息が漏れる。
「……こういうのは彼女とするものでしょ」
「しょーが無いじゃん、俺彼女いないんだからさ」
頬を膨らませて抗議をするを見て、不覚にも思わず俺の顔に笑みがこぼれた。
「ねぇ、
「ん?」
「俺より先に彼女作ったら、許さないからね?」
「げ!何だよ突然!」
「いいから、約束だよ」
「仕方ないなぁ、大切なお兄様のためになるべくもてない様にしておくよ」
「それに関しては全然問題ないでしょ」
「うわ、ひでぇ!」

君の笑顔を……今は独占させて。
君は大切な俺の半身なんだから。


美咲 紫音さまより90000アクセス代理キリリク戴いた「英士のブラコンドリーム」ということで書かせていただいた作品です。
美咲さんのイメージと違っていたらごめんなさい!
これからも遊びにきてやってくださいね!
余談ですが、デフォルトの主人公名前は<龍成・ヨンソン>と読みます。
韓国の方の名前は難しいですね〜!

ブラウザのバックでお戻りください。