TWINS ! Ver. Kazuma SANADA

「なぁ、一馬! 一馬ってばー!!……聞いてるのかー?一馬っ!」
リビングから、透き通った少年の声が響く。
……が、何度その名を呼んでも、二階にいる筈の人物からの返答は無い。
「ったく……ナニやってんだよー」
ふむ……と少年は自分の手を腰に当て、大儀そうに呟いた。
数分前、リビングでテレビを見ていた少年はふと、自分の隣の携帯がガタガタと振動しているのに気が付いた。
自分の携帯ではないので、そのまま放っておこうとも思ったが、振動は途切れる気配が無い。
しばらくして、留守番電話に切り替わったのか振動は消えた……と思われたのもつかの間、数秒たつと再び携帯はけたたましい音をさせ、ガラステーブルの上を跳ね回る。
そんなことを4回程繰り返したところで、うんざりした少年は携帯の持ち主の名前を呼び始めた。
……が、しかし今度は何度名を呼んでも、持ち主からの返答が返って来ない。
少年は溜息をつくと、仕方なく階段を登りはじめた。

* * * * *

「かーずーまっ!」
少年は何度呼んでも返事をしない双子の兄……一馬の肩を仕方なく揺する。
「ん?」
一馬は弟……に揺すられて初めて振り返った。
「ったく、何度呼んだと思ってるんだよー」
「あ、わりぃ……」
そう言って、苦笑しながら一馬はヘッドフォンをはずす。
彼が向かっていた先はテレビの画面。どうやら新作のサッカーゲームに熱中していたらしい。
は訝しげに眉をひそめた。
「……っていうかさー、どうしてゲームするのにヘッドフォンしてるんだよ」
の言葉に一馬はちょっと複雑な顔をして口篭もる。
「だってさ……煩いじゃん、セミの鳴き声」
「嘘」
きっぱりと少年に言い切られて、一馬は面食らう。
「え?」
「これだろー?理由は」
そう言いながらは一馬の携帯を、彼の目の前に突きつけた。
画面には『着信5件』の文字。映し出されている名前は……『安達 美雪』。
一馬の顔には、『まずった……』という心情がありありと映し出されている。
無視を決め込む為に、暑い中ヘッドフォンまでしたっていうのに、肝心の電話をリビングに忘れてきてしまうとは……。
「う……」
目を泳がせたまま、一馬は所在無さげにコントローラーをいじっている。
「一馬は嘘つけないもん。すぐわかるよー」
は『一馬の事ならなんでもわかるもん』と付け足して、コントローラーの代わりに携帯を一馬の手に押し付けた。
「なーなー、もしかしてこの人一馬の彼女?」
「は?」
一馬は目を丸くする。
「喧嘩でもしたの?」
「いや、そうじゃ……」
「喧嘩したなら、早めに仲直りしなよ」
「だから違……」
「すぐ拗ねるの、一馬の悪いトコだもんなー」
が『ね?』と首をかしげて説得(?)をすると、一馬は眉端をキッと上げる。
「だから、ちがうって言ってるだろっ!」
「え?違うの?」
は可笑しそうに笑う。
……確信犯的笑み。
少年は確実に面白がっていた。
それこそ、理由を聞くまでは離れません、とばかりに。
「じゃあ何?」
ニコニコと絶品の笑顔でが聞く。
「……なんでもいーだろ。には関係ないよ」
一馬はぶっきらぼうに答える。
「あー、そう言う言い方ってヒドイんじゃない?それともやっぱり彼女なのかなぁ?」
「ちがうって!」
「英士君と結人君に聞いてみようかなぁ〜『一馬の彼女ってどんな人?』って」
「お、お前卑怯っ!」
――あの二人にそんなこと言ったら、例えそんな事実関係が無くても事実にされちまう……!
一馬の額に、一粒の汗が伝う。
「だから、コイツは……」
一馬がそう言いかけた時、再び携帯が振動を始める。
はニッと笑うと、瞬間的に一馬の手から携帯を奪い、即座に応答ボタンを押した。
「もしも……」
「ば、馬鹿!」
一馬はを上回る勢いで携帯をひったくると、携帯に向かって怒鳴り声を上げる。
「おい、美雪!何度かけたって、電話番号なんて教えてやんねーからなっ!わかったかよ!……あ?ブラコン?うるせーよ!なんて言われたって、教えたくねーもんは教えたくねーんだよ!」
「……ヨシユキ?」
携帯に向かって怒鳴りつけている一馬の言葉の異変に気が付き、は眉をひそめた。
「なぁ、一馬、ヨシユキって……」
「あ?」
「もしかして……男?」
一馬はばつが悪そうに、無理やり切った携帯をベッドに放り投げると、口を引き結んだまま『ああ』とだけ答える。
「……だから彼女じゃねーっつったろ」
「うん……でも、まさか一馬に『彼氏』がいるとは思わなかった……ごめん、そりゃ言いにくいよねー」
すまなさそうに告げるの突然の発言に、一馬は今までで最高に目を丸くする。
「……はぁ?……なにいってんのか、俺わかんねー……」
「え?だって」
はパチリ、と愛らしい瞳を瞬かせる。
「あ、じゃあ男の人に追いかけられてるの?」
「だから……そーじゃねーよ……」
はぁ、と一馬は溜息をつきながら肩を竦める。
どうやら観念したらしい。
「美雪……この女みたいな名前の奴は男で、ロッサのメンバーでさ……」
「うん」
「……お前、この間俺の試合の応援に来ただろ?」
「うん」
「そん時に……まぁ……その……お前のこと気に入ったっていうんだけどさ……。そいつがお前の携帯番号教えろって煩くて……」
「うん……って、ええ!?」
は素っ頓狂な声を上げる。
「だからっ、俺はがアイツと一緒にいるのなんてヤだったから……」
最後の方はボソボソと小声になりながらも、呟く一馬の頬は赤い。相当に照れているらしい。
「一馬……もしかして妬いてくれたの?」
「ばっ……なにいってんだよっ」
瞬時に耳まで赤くしながら、一馬はしどろもどろに答える。
「それでブラコンって言われてたんだ」
はニッコリと笑いながら、一馬に抱きつく。
「やーん、一馬大好き〜♪」

直後、一馬がまるでトマトのように赤くなって床に倒れたのは言うまでも無い……。

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