運命の女神は僕に輝いて

「じゃんけん……ぽん!」
「あいこで……しょっ!」
「あいこで……しょっ!」
「はーっ、はーっ」
ある日の昼下がり、少年達は額から汗を流しながら、白熱のバトルを繰り広げていた。
人生において勝利者はたった一人。
「あいこで……しょっ!!」
一瞬の気の緩みが、自分の人生を大きく変えてしまうこともある。
否、今この戦いに敗れてしまえば、人生が大きく変わってしまうこと請け合いだ。
なぜなら。
皆がこの機会を窺い、お目当ての対象を自らのものにしてしまおうと目論んでいるからだ。
もっとも自分とて例外ではない。
……と、いうより。
勝利者は自分であるはずで。
更に言えば、今回のこの勝利によって、皆との間を日本海峡以上のものとし、自分の人生をより楽しいものにし、他の人生を哀れむ筈であるのだ。
つまり、今回のこの勝負で決定打を得ようと目論んでいるのである。
そろいもそろって、その場にいる全員仲良くそう考えていることは、己自身の考え以外誰も知らないが。
「あいこで……しょっ!!!
「……!?うが〜〜〜〜〜〜!!!!マジかよ!嘘だろ!?なんでだよ〜〜!!??」
白熱したバトルが繰り広げられて早1分のこと、最初の敗者が出現した。
敗者の名は鳴海。
苦悶の表情で長い髪をかきむしりながら地にくず折れる。
そんな鳴海を見て哀れな表情をするもの、軽い嘲笑をたたえる者、合掌をする者様々だが、みな一様に『ライバルが減った』事実だけにはほくそえんでいた。
「じゃんけん……ぽん!」
再び始まる熾烈な争いの勝負は、更に戦士たちを篩いにかけてかけていく。
「げ!」
「うわ〜〜!マジかよぉ〜〜」
戦士たちの絶叫がこだまする。
今度は二人分だ。
あえなく敗者となってしまったのは、真田と藤代。
真田はその凛々しい眉をかわいそうなくらいハの字に曲げ、藤代は捨てられた子犬のような瞳で自らの出した拳を見つめている。
再びライバルが減ったことに気を良くする勝ち残り組み。
彼らの脳裏には、既に自分が勝者となった後の、めくるめく快楽への妄想が渦巻いていた。

* * * * *

それから暫くの後……時間にして3分が過ぎた頃。
勝ち残り組に残ったのは4人。
「へぇ、水野お前が残ってたとはね」
椎名が挑発的に水野に食って掛かる。
「そういうお前こそ、こういうことに興味あるとは驚いたな」
ピクリ、と眉を寄せながら水野が反撃をする。
「あはは、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られてなんとやら……って言葉が有るけど、どうせなら俺に蹴られて死んでみる?」
ニッコリと、天使のような笑顔で、椎名が言う。
長い睫毛が揺れて神秘的だ。
「そう言うお前こそ、人の恋路を邪魔して郭あたりに蹴られて、そのお綺麗な顔が台無しになるなんてことの無いように気をつけるよ」
水野も負けずと、その数多くの女性を魅了してやまない甘い笑顔を向けた。
「失礼な奴だね。俺がそんな証拠を残すような殺し方するはず無いでしょ」
不快の表情を満面にたたえて、郭が参戦する。
「どうせやるなら完全犯罪をするよ。ああ……そうだね、本気で考えようか」
何気に本気のような絶対零度の瞳で、郭は口の端を吊り上げた。
三者が睨みあう。
メンバーはその火花の激しさに、思わず息を呑んだ。
「……お前ら」
果敢にもそんな三人に声をかけたのは、選抜キャプテンの渋沢。
軽く溜息をつきながらもメンバーをまとめにかかったようだ。
「早く決めないと、じきに監督達もも帰ってくる。バスももうすぐここに到着するはずだ」
はっと三人は視線を緩める。
そうだ、こんなところでまごまごしていて最愛のの隣をゲットできないなんていう事態は避けなければならない。
そんなことになったら、ここまで自分達がアホらしい戦いを続けてきた意味が無いのだ。
そう――バスの中、の隣でを帰り道の約1時間半を独占できるという栄光を、もう少しでつかめるところなのだから。
三人はぐっと自らの拳を握る。
運命は、この自分の右手にかかっているのだ。
「……と、いうわけで、決着をつけようか」
ニッコリと、渋沢は言う。
……そういえば。
ここまで残ったのは4人。
椎名と、水野と、郭と……
「キャプテン……何気なく参加してたんスね……」
魂を抜かれたような藤代の声に、渋沢は微笑することで答えを返す。
そしてメ残りのンバーも、口にこそしないものの「渋沢の奴、ちゃっかりここまで残っていたのか……」と、各々苦笑をした。
「じゃ〜〜んけ〜〜ん……ぽいっ!」
出されたのはグーとパー。
瞬間的に、郭と水野の顔が引きつる。
「…………!」
「う、嘘だ……!」
「ははははは!残念でした!ま、お前達にはふさわしい最後だと思うけど?」
勝ち誇ったような椎名の声が、二人の脳裏に響く。
「残念だったな。ま、次回に期待もあることだしな」
ちっとも残念でもなさそうな渋沢の声が、更に追い討ちをかける。
「……覚えてなよ?二人とも」
そう言った郭の瞳にはなんだか怪しげな光が灯っていた……とは後の真田と若菜の談。
がっくりとうな垂れた敗者を尻目に、最後は一騎打ちへと突入。
「じゃ〜〜んけ〜〜ん、ぽいっ!」
「あいこでショ!」
「あいこでショ!」
「あいこで……ショ!」
白熱のバトルは更に熱を帯びてくる。
数十回に及ぶ相打ちが重ねられ、お互いの精神力は既に限界に近い。
考え得るだけの策は考えた。
負けるはずは無い。
しかし……勝者はたった一人だけなのだ。

瞬間。
渋沢の拳が高々と天に掲げられた。
同時に椎名の膝が地面に落ちる。
渋沢は会心の笑顔を顔中にたたえ、椎名の顔には苦渋に満ちた表情が添えられる。
勝者は決まった。
「やはり、善行は欠かす物ではないな」
まるでその勝利が自分の人間性の賜物だと言わんばかりに、渋沢はそう一人ごちる。
メンバーは、その光景をなんともいえない顔で見守った。
「……?みんな、なにしてるの?」
突如かけられた声に、メンバーは瞬間的になんとなく後ろめたい思いを感じる。
景品扱いだもんなぁ……。
今までの白熱した自分の気持ちを棚に上げて、メンバーは一様にそう考えた。
「ん?か。いや、ただ帰りのバスの席を決めていただけなんだ」
ニッコリと……というか、いけしゃあしゃあと渋沢が答える。
「ふぅん。あ、もうすぐ監督来るからって」
ニッコリと、が答える。
渋沢は「そうか」と答えるとニッコリとをバスの席へと促した。
これからの1時間半の間に話す事を想像しながら……。

翌日……渋沢が原因不明の腹痛やら高熱やら頭痛に悩まされたというのは、翌週同校の藤代によってメンバーに広まったが、哀れに思った者がいたかどうかは定かではない。
そして、ニヤリと笑ったものが約一名。
「は?誰かだって?……バカ、俺だって命は惜しいんだ……」
顔を青くした真田氏がそう発言したとかしないとかというのも……定かな話ではないとのことだった……。

* * * * *

涼:すみません。ええ、謝ります、すみません!!(汗)。
歩:……。
涼:最初は、ですよ。シリアスにする予定だったんですっ!
歩:……。
涼:でも途中からどうにも軌道修正がいかなくなって……(汗)。
歩:僕には最初からギャグだったように思うけど……?
涼:……あは。
歩:……続き、書くんでしょ?
涼:予定ではそっちにシリアス書く予定です〜。呆れずにお付き合いください〜f ( ^-^;)

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