A thing left behind… |
「……ここは、どこだ?」 僕は盛大なため息を一つついて、周りを見渡した。 広いグラウンド……らしきものが幾つかと、トレーニングルームその他の諸施設のビルが幾つかに……。 「う……」 見渡したはいいが辺りは夜、おまけに外灯の一つも灯っていない。 自分の今の視界では、それらを判別するだけで精一杯だ。 僕はがっくりと肩を落とした。 もう、厄日としか言い様にない。 ことの発端は今日の夕方にある。 * * * * * 僕は左腕の骨折を直し、晴れて選抜のメンバーと合流できた次の週、再び選抜の合宿に呼ばれた。 合宿といっても練習試合のために相手校に二泊させてもらうだけ、という簡単なものなのだが……相手は遠方のマンモス総合学校の高等部。 僕たち東京選抜メンバーは土・日・祝の三連休にこの高校に招待された。 初日の土曜は僕たちとここの生徒との合同練習、二日目の今日は彼らとの練習試合、そして明日には帰路につく……というのが日程。 僕たちは昨日の合同練習を滞りなく終え、今日の練習試合では1点を取られるも逆転勝利、というまぁそこそこの結果を残し、明日の朝には帰路につくため部屋でくつろいでいた。 ……ハズだった。 というのも、僕が昼間の練習試合の時に時計を落としてしまったことに起因する。 最後の記憶では試合前にバッグの中に入れておいたはずなのだけれど、宿舎に戻ってみたら無い。 きっと試合後にタオルを出した時に落としたんだと思う。 落としたものが他のものなら、きっと僕も諦めていただろう。 でも、その時計は僕の親友達三人が誕生日にプレゼントしてくれたものだから、無くすわけにはいかない……と、いうより僕自身の気持ちとして、絶対なくしたくないものなんだ。 そんなわけで、僕は一人でグラウンドまでその時計を探しにきたのだけれど……。 不覚にも、僕はグラウンドに辿り着く前に迷ってしまったのだ。 勿論、部屋を出るときに覚悟はしてきた。 ここの学校の生徒数は僕の通っている龍柳高校中等部の約3倍になる。 龍柳高校は全国に系列校のある結構名の知れた総合学園であるし、生徒数だって一般の中学に比べて多少多いはずだ。 その龍柳高校の中等部の3倍(高等部で言えば約2倍)の生徒が在籍する学校は、当然のごとく敷地もかなり広い。 そう覚悟はしてきたはずなのに、まだまだ僕の考えが甘かったことを痛感させられた。 かなり広い、なんていうものじゃあない。 訂正、「ものすごく」広い。 僕が宿舎を出たのが8時頃のはずで、それからかれこれ20分は経過しているだろう。 なのに、昼間練習試合を行ったはずのグラウンドらしきものは一向に見えてこない。 グラウンドから宿舎までは確か10分ほどの距離だったはず。 つまり……。 「迷ったってことだよね……」 僕は溜息をついた。 頼みの綱の携帯は、すぐ帰る事ができるだろうと部屋に置いてきた。 まさに万事休す。 僕はグラウンドを隔てる、自分の肩下ほどまでの高さの緑色のフェンスにもたれかかる。 カシャン、と軋むフェンスの音を聞きながら、僕は夜空を見上げた。 瞬間。 背中に突然衝撃を感じるのと同時に、フェンス越しに後ろから誰かに抱きすくめられる。 「……なっ!?だ、誰……!!」 僕は情けないことに、あまりの驚きの為ひっくり返ってしまった声で質問を発する。 「は、放し……!」 じたばたと相手の手を振りほどこうと自分の両腕を振り回すが、フェンス越しに拘束されているので効果は無い。 「〜俺だよ〜〜♪」 焦りも絶頂を迎えようとしていた矢先、不意に降ってきたのは聞き覚えのある声。 「ふっ……藤代!?」 「そうそ、俺♪」 そう言うと、藤代は僕を拘束していた腕を解放する。 「びっくりした?」 僕が振り返ると、悪びれもせず満面の笑みを浮かべながら藤代が立っていた。 「……じゃないよ」 「ん?」 「びっくりした?じゃないよっ!するに決まってるだろっ!なに考えてんだよ〜〜!」 思わず僕は大声で抗議する。 ……ここが市街地じゃなくてよかった。 「あはは♪♪やっぱり?」 それでも藤代は反省するでもなく、ニコニコと笑いながらフェンスを乗り越えている。 ……こいつ、足でも引っ掛けてやろうか? 「ところで、こんなところで何してんの?」 僕が出した足を器用によけながら、藤代が聞く。 「……忘れ物、取りに……」 「どこに?」 「昼間のグラウンド」 「……じゃ、どうしてここにいるの?」 「……そ、それは……」 「…………もしかして迷った?」 ニコニコと遭遇当時の三倍ほど嬉しそうな顔をして聞いてくる藤代を一度にらみつけると、僕はぷいっと他所向く。 「別に、そういうわけじゃないよっ」 「ふーん?」 更に嬉しそうに相槌を打つ藤代を横目に、僕は内心安堵感を覚える。 「じゃさ、どうしてここにいんの?」 「だ……だからそれは……さ、散歩……だよ」 「一人で?」 「一人が好きなのっ!」 「そっか、じゃー俺邪魔しちゃったかな。ごめん、♪」 僕は、明らかにニコニコと笑顔を浮かべながらそう言って立ち去ろうとする藤代のシャツを慌てて掴むと、思わず声を上げる。 「じゃ、邪魔だなんて言ってないじゃないか!意地悪!」 「あはは、人間素直が一番だよ、♪」 ……神様、どうしてここに現れたのが藤代なんですか……? 僕は恨めしそうに天を睨むと、はぁ〜と再び溜息を漏らした……。 * * * * * 僕が藤代と出遭ってから5分、ようやく目の前に見覚えのある風景に出くわした。 「、こっちこっち」 藤代はそういって繋いでいた僕の手を引くと、鍵の閉まっているフェンスを器用によじ登る。 僕もそれに習って、先ほど自分がもたれていたフェンスの二倍の高さがありそうなフェンスを乗り越え、グラウンド内へ侵入した。 「……えーと、俺たちが座ってたベンチは……ここだ」 藤代はちょいちょいと正面を指差す。 「僕が荷物を置いておいたのがこの辺だから……この下辺りにあるはずなんだけど……」 そう思って僕は身をかがめるが、暗すぎてよく見えない。 ためしに手探りでベンチの下辺りをまさぐってみるけれど、やはり手に時計らしい感覚は無かった。 「ある?」 「暗すぎて、よく見えない」 ナイトゲーム用の証明は備え付けられているが、さすがにこの時間に煌々とグラウンドにライトをつけるわけにもいかない。 さて、どうしたものか……。 「……ほい。これでみえる?」 不意にそういうと、藤代はどこから取り出したのか、ペンライトで僕の手元を照らし出した。 「……サンキュ」 * * * * * 探すこと10分。 備え付けのベンチの椅子と椅子の間に引っかかっている時計をやっとの事で発見した僕たちは、そのままその椅子に座り込んだ。 まだまだ暑さの残る熱帯夜での捜索は、意外に時間とパワーを要した。 きっと僕一人で探していたらもっと時間がかかっただろう。 ……いや、それよりも、この場所に着いていたかどうかの確証すらもなかったはずだ。 「有って良かったなぁ、」 「うん、ありがとう藤代」 僕は素直にお礼をのべる。 「……そういえばさ、藤代はどうしてこんなところにいたの?」 「ん?俺?」 藤代はベンチに片足を乗せ、肘をついた格好のままこちらを振り仰ぐ。 「あー実は俺、なんだか急に甘いものが食べたくなっちゃってさ。ほら、こういう気持ちって我慢しなきゃと思えば思うほど大きくなるじゃん?そんで我慢してるうちにどうしても食べたくなっちゃって、寮を抜け出してコンビニまでいって買ってきたんだ♪」 「………」 僕はその理由の、あまりの藤代らしさに瞬間的に脱力する。 「ほら、これが戦利品♪」 どーだ、とばかりに、藤代のポケットからはお菓子がぽろぽろ出てくる。 いったいこれだけのお菓子を、どうやってポケットに入れてきたんだ? 藤代のポケットは四次元ポケットかもしれないと、僕は真剣に思った。 「……これだけ、全部食べる気?」 「うーん……それがさぁ、やっぱりこんなの部屋に持って帰ったら監督にばれちゃうだろ?だからって全部食べるには多すぎるしさ。かったはいいけど、ちょっとどうしようかなーと考えてるところだったんだよな」 さも、重大!というような面持ちで藤代がうなる。 行動を起こしてからそういうことを考えるところは非常に藤代らしい。 サッカーをしている時の瞬間的思考能力の優れる藤代と、この藤代は別人なんだろうか? 「捨てるのはもったいないし、困ったなぁ……と思ってたら、ちょうどが歩いてるのが見えてさ。」 そういうとニパっと笑って藤代がこちらを見る。 「と、いうわけでちょっと付き合ってよ、」 「……少しなら構わないよ、僕も手伝ってもらったし」 「お♪さっすがくん♪そういうとこ俺スキ〜♪」 藤代はそう叫ぶとガバっと俺に抱きついてくる。 「う、うわっ!」 自分より10cm以上背の高い藤代に抱きつかれて、僕は窒息寸前になりながらバタバタともがく。 「く、くるしいよっ!藤代っ!!」 「なぁなぁお願い、俺のこと名前で呼んでみて♪」 「わ、わかったから放して藤代……!」 「誠二だって」 「せ、誠二っ!」 「お〜♪なんだか俺たちちょっと距離が縮まった気がしない?」 「……僕は寿命が縮まりそうだ……!」 「あ、悪い悪い」 全然悪くなさそうに藤代が僕を拘束している腕を緩める。 「じゃあさ、俺ものことって呼んでいい?」 「……別に、構わないよ……」 「やったー♪」 何がそんなに嬉しいのか、藤代はわぁわぁと騒ぎ立てると再び僕の頭を抱えるように抱きついてくる。 こいつ……抱きつき魔なんだろうか……? まぁ、憎めない奴……ではあるんだけど。 僕は半ば椅子に押し倒されるような格好になりながら、観念したように溜息をついた。 * * * * * 「……なに、してるの?藤代……」 不意に自分の頭の上から声が降ってくる。 この声は……英士? 「……う、郭か……」 「英士……!」 僕は藤代の身体で姿が見えない親友の姿を探そうと、自分の身体をもぞもぞと動かす。 この声からして、英士は相当怒っている。 ……まぁ、何も声をかけずに一時間近くもルームメイトが帰ってこなければ心配もするだろう。 特にしっかりしている英士は、僕の親からも「よろしくね」頼まれているものだから、なにかと過保護なくらいに僕の世話を焼いてくれる。 もっとも、それに甘える僕もいけないのだろうけど……。 とにかく、僕は英士に一言謝ろうと身体を動かすのだが、何故か藤代は僕の身体を放さない。 「藤代……のになにしてるの?ってきいてるんだけど」 「熱い抱擁」 「……見れば解るよ。さっさと放して。早く」 「ちぇ、いい雰囲気だったのに」 藤代はしぶしぶ、といった風情で腕を放す。 僕はやっと藤代の腕から解放され、自由の身になった。 「……、どうして出て行く前に俺に一言言わなかったの」 「あ……ごめん」 「一馬も結人も心配してたよ」 「う……ごめんなさい」 「点呼は一馬と結人に頼んでおいたから、ばれてはいないはずだけど……。二人とも心配してるから早く帰……」 「点呼!?」 英士の言葉に藤代が突然素っ頓狂な声を上げる。 そうだ、確か8時半に点呼をすると夕食時に監督が言っていた。 「ヤバ……忘れてた……」 「早く帰った方がいいんじゃない?そういえば監督が探してたみたいだけど?」 「……鬼」 「自業自得でしょ」 笑顔で、英士が言い放つ。 「じゃ、じゃあ!俺先に帰るから……また明日なっ♪」 「早く行きなって」 英士の怒りのボルテージが上がるのが解る。 ……英士って、時々怖い……怒らせないようにしないとな……。 僕はそう心に決めると、部屋に残っている二人に電話をしている英士のかおを仰ぎ見る。 「さ、帰ろう」 「うん」 月明かりに照らされた歩道をゆっくりと二人で歩いて帰る。 今度こそは、道に迷うことは無かった……。 * * * * * 歩:……(怒)。 涼:あ、そんなに怒らないで……(汗)。 歩:に謝りなさい、素直に(怒)。 涼:……はい、さんすみません(汗)。実は書いてる間に迷っちゃいまして……。このまま本当にBOYS LOVEに発展してよいものかと……。中途半端な出来になりました、ごめんなさい。 歩:えーと、涼澤はこのように迷っています。よろしければ感想や希望などをよこしてやってください。 涼:はい、感想などお書きになっていただければ幸いかと思います。 歩:最後に、読んでくれてありがとう!感謝! |
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