Breakthru

今、信じられない事実がある。
目の前に貴方がいる。
桜の下、忘れもしないあの笑顔を見せて、貴方が立っている。
夢にまで見た貴方。
触れられなかった貴方が今、目の前にいる。

Breakthrough these barriers of pain
Breakthrough to the sunshine from the rain
Make my feelings known towards you
Turn my heart inside and out for you now
Somehow I have to make this final breakthrough
Now!

「……っ!」
司馬は驚きのあまり止まって止まってしまう足を恨めしく想った。
今ここでこのチャンスを逃してしまえば、次ぎは無いかもしれない。
恐らく、これが最初で最後のチャンス。
身体中に震えが走る。
心臓が高鳴る。
――もし自分のことを覚えていなかったら?
――もし、迷惑そうな顔をされたら?
いくつもの不安を打ち消しながら、司馬は足を一歩踏み出した。
「――先輩っ!」


今、信じられない事実がある。
目の前に君がいる。
桜の下、必死に何かを訴えようと、君が走ってくる。
夢にまで見た君。
触れられなかった君が今、目の前にいる。

驚きのあまり足がすくんで動けなくなるのを、は恨めしく想った。
司馬が走ってきている。
足がガクガクと震えているのがわかった。
心臓の音がやけにうるさい。
――俺のことを覚えていた?
――俺のことを探していた?
頬に熱い物が伝わるのを感じると、の足は自然に司馬を目指した。
「……っ司馬っ!」

* * * * *

司馬は走ってきたを抱きとめる。
半年前まで5cmも変わらなかった身長が、今では10cmほどに広がっていた。
抱きしめた身体は想像以上に華奢だ。
司馬は会えなかった時間の長さを痛感した。
「司馬っ……」
すがりつくように腕を回してきたを、司馬は愛おしそうに抱きしめる。
「……やっと会えた……」
搾り出すような声で、司馬がの耳元で囁く。
「俺もっ……会いたかっ……」
久しく感じるお互いの体温に、堪えきれないほどの愛情を感じる。
いつから惹かれていたのか?
いつから愛していたのか?
会えない時は永遠にも感じるほど永すぎて、それすらも忘れてしまった。
ただ今は、お互いの想いが再び離れてしまわないように、硬く抱きしめあうことしか出来ない。

Your smile speaks books to me
I break up
With each and every one of your looks at me
Honey you're starting something deep inside of me
Honey you're sparking something this fire in me
I'm out of control
I wanna rush headlong into this ecstasy
If I could only reach you
If I could make you smile
If I could only reach you
That would really be a breakthrough

どれくらいそうしていたか解らない。
永遠にも似た一瞬が過ぎた時、どちらとも無く顔を上げた。
「俺のことなんて忘れてると思ってた……」
「………」
の言葉に司馬は首を横に振り、否定を表す。
「もう会えないかと思ってた……」
「………」
司馬はきつくの身体を抱き寄せる。
「……俺、お前のこと……」
「……先輩が、好きです」
言いかけたの言葉を遮るように、司馬は低く言った。
囁くように、言い聞かせるように。
先輩が……好きです」
「司馬……」
の瞳に、涙がきらめく。
「……俺も……司馬が好き」
サングラス越しに、司馬の瞳が微笑むのをは感じる。
気がつけばあの夏の日のように、司馬のイヤフォンから今はもう聞きなれたQUEENのイントロが漏れて聞こえた。
「……はは、懐かしいな」
「……?」
「司馬のイヤフォンから聞こえるQUEEN。これは……Breakthrough?」
「……!」
「まさに、俺の今の気持ちにぴったりだ」
そう言っては囁くようにイヤフォンから流れる曲にそって口ずさむ。
「〜♪ If I could only reach you
If I could make you smile
If I could only reach you
That would really be a breakthrough
Oh yeah
Breakthrough breakthrough 〜♪」
「………」
「驚いた?」
「……」
司馬が無言で頷く。
「司馬の好きなQUEENを聞いたら、司馬に近づけるような気がして。バカだよな、俺も」
の言葉に、司馬は返事をする代わりに自分の唇をのそれに重ねる。
「……んっ」
触れるだけの優しいキス。
はそっと司馬の背に腕を回した。
「もう……離さない」
「俺だって」
二人は再び唇を重ねると、固く抱き合った。

桜が二人を祝福するように沢山のは花びらを風に舞わせる。


気分良く、目覚めた
君の面影が、心を満たした
僕はあっという間に、君の信者になった
だって君はまるで、神のようだったから
ねえ、君が何かに触れると
自分に触れられたような気になるよ
僕は君の手の中、君に魅了されているんだ、わからないかい

君の微笑みは
僕を支配する
君が僕を見るそのたびに
僕は粉々になりそうな気分だ
ねえ、君は僕の心の奥深くに、何かをもたらした
ねえ、君が何か言うたびに、
僕の心は燃えあがるんだ
もう、自分を押さえられない
まっさかさまに、この快楽の中に飛び込んでいくだけ
♪ " Breakthru"  Words and music by Queen (intro: Fred, song: Roger)

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