THE DARK HALF −Side Y

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SQUALL

「門外顧問から聞いたんだが、六道骸が脱獄したってのは本当か?」
「ああ、本当だ」
ディーノは神妙そうに、しかしきっぱりと頷いた。
「そのことについてが聞きたがるだろうと思ってね、その後も独自に情報を集めておいたよ」
そう言うと、ディーノは部下を下がらせる。
「悪いな」
「オレでキミの力になれるなら、出来る限りのことはするさ」
ディーノはそう言って人のいい笑みを浮かべると、数枚の資料を取り出した。
簡単な脱獄の経緯と脱獄囚のプロフィールが添えられている。
オレは手近かな写真を手に取ると、眉を顰めた。
「ん……これが、六道骸……?」
自分の独自に調べた容貌とまったく異なっている。
あいつはこんなに鋭い表情をしていただろうか?
オレの記憶ではもっと、シンプルな冷たさを湛えたような表情をしていた筈だが。
「そうだ。脱獄した例の牢獄の資料を取り寄せたんだから間違いない」
「そうか……」
キャバッローネの情報収集能力には定評がある。
それを信頼してわざわざディーノの屋敷まで足を運んだのだが、どうも事はもっと複雑な様相を表わしているように思えてならない。
オレは腕を組むと、写真をテーブルへと滑らせた。
「脱獄したのは六道骸本人に加え、柿本千種、城島犬」
「うん」
「だが、どうやらこの内部の3人に加え、外部からも脱獄を手伝った人物がいるらしい」
ディーノはそう言うと、もう一枚の写真をテーブルへと滑らせる。
「その仲介をしたのがこの男……アントニーノ・マリーニ」
あごひげをたくわえた典型的なイタリア優男だ。
「こいつは既に我々の手の物によって捕まっているが……」
「手伝った奴は?」
「それが、まだ捕まっていない」
「マリーニは口を割らないのか?」
「割らないんじゃない、知らないんだ」
ディーノはそう言うと深いため息をついた。
「知らない?」
「実行犯は恐らく途轍もなく頭の切れる人間だったのだろう、一切自分の素性などをマリーニに漏らしていないんだ」
そのような事が可能だろうか?そう考えてオレはため息をついた。
一言で言えば可能だ。
自分であれば考えうる計画が既に2,3練りあがっている。
ただし、それには自分と同程度の高度な頭脳の持ち主である必要があるが。
「ただ一つだけ解っていることと言えば……その人間は自分のコード・ネームをRAINとしていたという事だけだ」
ディーノはそう言うとソファへその背を持たれかけさせた。
「調べたって言っても、話してみればこの程度か。情けないな、悪い
「いや、今の情報だけでだいぶ絞り込めた。少なくとも六道骸の背後にはオレと同レベルの頭脳の持ち主がいるってことさ」
そう言うと、オレは顎の下で手を組んだ。
「ま……確かにそう考えれば、決して多人数じゃあないな」
ディーノはそう言って苦笑を浮かべる。
「その後の六道骸たちの動向は?」
「お、そうそう。今のところ……アジアに向かっているらしいと言うことは伝わってきている。その中でもオレは日本に行くんじゃないかと睨んでるんだけどな。ま、これはオレの憶測だが」
「その意見にはオレも賛成だな」
六道骸が収容されていたエストラーネオファミリーは色々な意味でボンゴレと繋がりがある。
そのまだまだ未完成な次期ボンゴレと歌われる男がいる日本に目を向けるのはごく自然なことだ。
次期ボンゴレ候補はお人好しで気が弱く、大ファミリーの中でもっとも隙が多いと思われていることには間違いが無い。
「……日本に飛ぶよ。久しぶりにツナにも会いたいしな」
オレはそういいながら、2年ぶりに会う事になる懐かしい従兄弟の顔を思い浮かべた。


『えー!?帰ってくるのー?!』
「……なんだよ、久々に従兄弟が帰国するっていうのにそんな言い方するかよ」
オレは電話口で聞こえたツナの素っ頓狂な声を聞いて思わず苦笑をした。
『いやいやいや!嫌なんじゃないよ!驚いてるだけだよ!いつ帰ってくるの?!』
「つーか、もう日本ついた。今空港」
『ええー!なんでもっと早く連絡してくれないんだよ!』
「悪い、急に決まったからな」
『解った、待っててよ。オレ今から迎えに行くから!』
ツナの弾んだ声が心地いい。
オレは軽く笑いながらツナを押し止める。
「いや、オレがそっち行くよ、その方が早そうだ」
『じゃ、最寄り駅まで行く』
ツナの声がそう言い終えない内にバタンとドアを開ける音が響く。
それに釣られるように通話が途切れた。
「慌てすぎて転ぶなよ」
オレは届いていない通話相手に苦笑しながらそう呟くと、携帯電話を切る。
2年ぶりの日本だ。
オレは空港の外へ出るとその青い空を仰いだ。
子供の頃から変わらない、澄んだ青。
4歳の頃から8歳まで、オレは日本に住んでいた。
ツナと同じ学校に通い、同じ家で過ごした。
日が暮れるまで泥だらけになって遊んで、よく奈々おばさんに苦笑されたものだ。
酷く懐かしい思い出。
それは降りしきるスコールの隙間の澄んだ青空のように爽やかだった。
自分でも気がつかないうちにオレの足取りは軽やかに改札を抜ける。
空港駅特有の広いホームを駆け抜け、目的の電車に飛び乗った。
電車の窓から差し込む日の光は眩しく、きらきらと煌くように降り注ぐ。
心地よいゆれ具合に、緩やかな睡魔が思考を靄のように覆った。
「……駅、港方面へはバスにお乗換えください……」
ぼんやりとアナウンスを聞き流していた時、不意に、オレの目に信じられないものが飛び込んできた。
「……ツナ?」
オレの乗る市内行きとは反対路線である空港行きの電車に乗っているツナの顔。
目が合うと、互いに一瞬思考が止まったように動きも止まる。
「まもなく扉が閉まります、ご注意ください……」
車内のアナウンスに我に返ったオレはあわてて「お・り・ろ!」と口を動かすと、身を滑らせるようにして車外へすべり出た。
同じようにしてツナもなんとか車外へ飛び出る。
「あっぶねー……」
オレは自分の幸運に感謝しながらホームをつなぐ階段へと目を向けた。
パタパタと数人の階段を下りる音が聞こえ、まもなく満面の笑顔を湛えたツナの顔が目に飛び込んできた。
「……!」
「おい、ツナ!駅で待ってるって言っただろ!」
オレは咎めるように、しかし笑顔でツナを迎える。
「ごめん!でも待ちきれなくて」
そう言いながら、ツナは照れたように頭をかいた。
「いいさ、ちゃんと会えたんだ。ところで……後ろの団体は?」
「ああ……えっと彼らは……」
「貴方が10代目の信頼する従兄弟のさんですね!オレは10代目の右腕獄寺隼人っス!」
ツナの自己紹介が始まる前に、目をキラキラさせたチョイ悪風の獄寺と名乗る少年が声を上げた。
これが噂のスモーキンボムか……。
オレは表情を変えずに少年を伺う。
「オレは、よろしくな。しかし、10代目の右腕って……」
「わー!何でもないよ!友達だよ、友達!」
恐らくオレがマフィアだの何だのと繋がりが無いと思っているのだろう。
あせるツナが可愛い。
「そ、それからこっちは……」
「あれ、武じゃないか!」
予想外の人物の登場に、オレは驚きを隠せなかった。
まだ付き合いは短いが、どこか人を安心させることが出来る人物だ。
「よー!やっぱだ。ははっ久しぶりだな!」
「何言ってるんだよ、一週間も経ってないだろ」
オレ達はまるで10年来の親友の様にそう言うと笑顔で肩を叩き合う。
「えっ!、山本と知り合いなの?」
「ああ、イタリアのディーノの屋敷でな」
「ええっ!、ディーノさんも知ってるの?」
ツナが混乱したように聞く。
「ああ、親友だ」
「それだけ世の中が狭いって事だぞ」
「久しぶりだな、リボーン。ディーノの親友だから、勿論リボーンも知ってるぞ」
「ちゃおっす」
「ええええ!」
ツナの慌てぶりにリボーンがにやりと笑う。
「立ち話もなんだぞ。とりあえず家に帰った方がいーな」
「あっそれで思い出した!、どの位日本にいられるの?」
はた、と気がついたようにツナがオレに向かう。
「ん……そうだな、しばらくは日本にいる予定だ」
どの位になるかわからない。
しかし、六道骸とRAINと名乗る男を見つけるまではイタリアに帰るわけには行かないのだ。
そしてRAINがもし、あの男であれば……。
オレは頭を振った。
今は考えても仕方がない事だ。
「部屋はどうするの?」
「そうだな、部屋を見つけるまではしばらくはホテルかな」
「じゃあ、うちに来ればいいじゃん!昔みたいにさ。ね、そうしようよ」
「いーんじゃねーか」
そうやって、ツナに押し切られるままにそうすることになった。


稲光が夜空を明るく照らしている。
昼間、あれだけの青空を見せていたのが嘘のように荒れた雲行きだ。
はちきれんばかりに水気を含んだ雲が上空に渦巻いている。
ぽつり、と1滴の雨が地面を濡らしたのと同時に、堰を切ったように激しい雨が景色を煙らせた。
ザア、と雨粒が激しく窓を叩く。
「通り雨だ」
「通り雨……スコールか」
不意に隣に座ったリボーンの方を見ずに、そう呟くように答える。
「お前が日本に来るって事は……なにかあったのか?」
周りには誰もいない。
オレはため息をつくと視線だけリボーンへとやった。
「ディーノから聞いてないか?……六道骸が日本へ来る」
「今日聞いたぞ。ついにツナにも試練のときが来る。けど、それをサポートするためだけに来たんじゃねーだろ?」
「ああ……」
オレは立てた膝に肘を乗せると、窓を叩きつける雨粒へと視線をやった。
「RAINってヤツを探しにね」
「聞かねー名だな。けど、お前が本気になるってことは、あの男に関係があることって事か」
「……」
あの男。
そう、あの日もこんな雨が降っていた。

『――!早く……!』
『二手に分かれるぞ!』
『嫌だよ!!一緒に――!!』
『早く行け、!生きてたら……後でまた会うんだ!』
ただ、土砂降りの雨の中をと二人訳も解らず逃げた。
なぜか、もう二度とと会えなくなるんじゃないかという妙な直感がした。
手を離したくなくて、駄々をこねた。
その手が振り払われる。
がむしゃらに走った。
走って走って、気がついたとき最初に目に飛び込んできたのは白い天井。
心配そうに覗き込む女性と男性。
『良かった家光兄さん、気がついたみたいよ!』
『ああ、ボウズ、もう心配ないぞ』
『……は?……は?』
『ごめんね、ボウヤ。アナタ以外は見つけてないの……』
不意におこる沈黙。
それを破ったのは男性のほうだった。
『痛いところ無いか?』
痛いところ……
『こころ……むねが、いたい……』
『……』
そうしてまた、オレは眠りに落ちていった。
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