Contract |
夜空に危うげな光を湛えた上限の月が白く輝いている。 は闇に包まれながら、静まり返った庭でその月を見上げていた。 その磁器のように白く輝く頬には、まるでそこだけバラが咲いたように赤い血の花が彩られている。 まるでビスクドールのように、その整った顔立ちからは何の表情も読み取れない。 はふと視線を地上へと戻すと、手中の書類に火を放った。 ――これで全部だ。 はそう口の中で呟くと、ゆらゆらと揺れる手の中の炎を見つめた。 ザンザスが実子ではないと記す書類は、今や墨になりつつあるこの書類で最後だった。 それを知る人物の口も、全て封じた。 それらを、は全て2週間でやってのけたのだ。 ザンザスとは、あの時別れたままだ。 総て、この作業はの独断で行った。 ザンザスがこれを歓迎するかどうかはには解らない。 しかし、例えそれでザンザスに詰られたとしても、はザンザスにとってこれが必要だと判断したのだ。 汚れ役でもなんでもする。 それがサブに与えられた使命だからだ。 は炭となったその最後の書類を、風に乗せるように撒いた。 総ての証拠が土に返る。 の瞳が、初めて僅かに曇った。 「――何の用だ」 長い足をテーブルに投げ出し扉に背を向けた姿勢のまま、ザンザスは侵入者に声をかけた。 扉に視線をやりもしない。 そんなことをしなくても、この気配はザンザスのよく知る者の気配だった。 「失せろと言った筈だ」 荒々しくシャンパングラスを放り投げると、ザンザスは初めて侵入者の顔を仰いだ。 カシャンと、グラスの割れる軽い音がする。 侵入者はそれを意にも介さずに、部屋の中に足を踏み入れた。 ジャリ、とグラスの砕ける音が小さく響く。 「例え――お前にオレが必要ないとしても、オレはお前の傍を離れない」 驚くほど艶やかな声が侵入者――の口から漏れる。 ぞくりとする色気のある声音だった。 ザンザスの精悍な眉が僅かに顰められる。 「どういう風の吹き回しだ」 不思議と、怒りは沸いてこない。 漏れた自分の言葉に、ザンザスは冷静に驚いていた。 「それが俺の仕事だからだ」 はゆっくりとザンザスの前に立つ。 「オレの仕事は10代目の補佐だ」 「だったら尚のことおかしいだろうが」 ザンザスは吐き捨てるように言う。 しかし、は少しの揺らぎも見せなかった。 「違わないさ。オレは……お前が望むなら、何だってする」 「……」 「お前が望むなら……お前を必ず10代目にする」 ザンザスの精悍な眼が僅かに細められる。 青い沈黙が二人を包んだ。 「オレを10代目にする……か。カスにしては上出来な台詞だ」 ザンザスの口角がツ、と上がった。 「だが、勘違いするんじゃねぇぞ。オレはお前の力なんざ借りなくてもそうするだけの力がある」 「解ってる」 「それでも、オレの物になりてぇのか」 「ああ」 の返事には微塵の迷いもなかった。 ザンザスの射るような視線を真正面から受け、さらに強い光をザンザスへと向ける。 「いいだろう」 ザンザスは視線を外さないまま、の頬に指を滑らせた。 生乾きの血が、ザンザスの指にうつる。 「貴様を――俺の物にしてやる」 反転しましたね? してしまいましたね? ここを見つけたあなたにお知らせです。 なんと、この続きが裏に載ってたりしています……。 XANXUS様と甘い一夜を過ごしたい方は、裏の探し方をよく読んで、裏へ飛んでみてください♪ 「まず――狙うならボンゴレ門外顧問のイエミツだな」 そう言うとはパサリと数枚の写真をテーブルに放った。 既に、他の10代目候補の目星は粗方ついている。 そのどの候補もがヴァリアーが動けば、取るに足らない相手だった。 「う”お”ぉ”ぉ”い、コイツがどうしたぁ。コイツは9代目の近くをチョロチョロうろつく唯のネズミだろうがぁ」 スクアーロはそういうと忌々しげに写真の男を見つめた。 「イエミツはどこの派閥にも属さず、内外で得た情報を9代目に報告している。コイツが今回のことの黒幕だ」 「ふん……カスが。どこのどいつだろうが全部潰してやる」 ダン、とイエミツの写真がザンザスの手によってテーブルに縫い付けられる。 ギラリと光るナイフがイエミツの額に突き刺さっていた。 「このイエミツさえ9代目から離せば、かなり仕事は楽になるはずだ」 元はといえば、ザンザスの10代目に一番反対していたのもこの男だ。 あの日、この男の話さえ聞かなければ、とて真実を知ることはなかったかもしれない。 それに、はどうしても、イエミツが<ブラッド オブ ボンゴレ>の理由以外でザンザスの継承を好もしく思っていないのであろうという思いが消えない。 イエミツには、口にこそしないが明確に時期ボンゴレの適任者を思い浮かべている……そんな思いすら沸き起こる。 イエミツを自由にさせてはいけない、そんな警鐘が常にの頭にはあった。 「フン、こんなカスジジイに何の力があるんだ」 「イエミツは9代目に苦言を呈することもいとわない。9代目はそんな男を身近において、自分の決定の指針にしている。そう言う奴ってのは案外強い影響力を持っているんだぜ」 「お前のようにか」 「オレ?オレは苦言を言ってるつもりはないぜ」 「クッ……まあいい」 ザンザスはそう言うと一気にブランデーを煽った。 「イエミツは、お前に任せる」 「ああ」 いずれ、ケリを付けなければならないと自身も思っていた。 ザンザスの邪魔をするものは、総て消す。 例えこの命が果てたとしても、それを成さねばならない。 は、静かに決意をした。 |
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