第3回主人公設定アンケート第1位 <雲雀恭弥弟設定>
COOL 〜Episode 2〜 <天邪鬼10のお題より> |
04. 知らないね 暖かな日差しがの冷え切った身体を優しく包む。 ふわりと頬を撫で上げる自然の柔らかな風が心地いい。 風に乗って仄かに色づいた葉が舞い上がって、青い空に彩を添えた。 高い空の下並木道を兄弟二人、肩を並べて歩いている。 にしてみれば、今の状況はまったく居心地の悪いことこの上ない。 まったく、一人でのんびりと歩けたらどれほど気持ちが良かっただろうか。 お互いに何を喋るともなしに、唯黙々と機械的に足を動かしている。 拳一つ分程高い位置にある恭弥の瞳を、は忌々しげに見つめた。 昔はもっと差があった身長。 一時期は殆ど変わらないくらいまで詰めたのだが、それをあざ笑うかのように今年の春には再び差を広げられてしまった。 「……何?」 ひんやりとした恭弥の視線が不意にに向けられ、それまで支配していた沈黙が破られる。 「別に」 はそっけなく視線を戻すと、再びその唇を閉ざした。 「人の顔を不躾に眺めておいて、別には無いんじゃない?」 「別に何も無いんだから、仕方が無いでしょ」 はそういうと、正面を向いたまま不機嫌そうにポケットに手を入れる。 しばらくそのまま無言で歩いていると、俄かに並中の物と思われる制服を纏った学生の姿が増えてきた。 恐らく部活で休日登校をしている学生なのだろう、とすればもう並中は近い。 は不本意ながらホッと溜息をついた。 もう、並中の校門を肉眼で見ることが出来る。 「……恭弥、本返して」 の言葉に恭弥は反応を示さない。 もう、並中は目前に迫っている。 「ねえ、恭弥、本……」 そういい掛けたの台詞にかぶせる様に、不意に恭弥が口を開く。 「風紀委員の仕事は5分で終わるから待ってなよ。図書館まで送ってあげるから」 「は?!並中までって言っただろ!」 「……しらないね。ゴチャゴチャ言わないでよ」 05. 一人にして は知らん顔で並中へと歩みを続ける恭弥の袖を強引に掴む。 「恭弥、本返してよ!」 が本に手を伸ばせば、恭弥はそのタイミングにあわせて本を離す。 手を伸ばせども、恭弥はひらりとかわす。 「返して……!」 この僅かな身長差が恨めしい。 フェイントをかけて素早く背後に回っても、絶妙のタイミングでかわされる。 「クソッ!」 そう吐き捨てふと回りを見渡せば、いつの間にか並中生の視線がへと集まっていた。 は小さく舌打ちをする。 観衆の視線も無理もない、あの風紀委員『雲雀恭弥』と対等に喋り、対等にやりあっている人物など並中内には存在しないのだ。 しかし、並中生ではないがその事に気がつくはずがない。 ただ、雲雀恭弥に簡単にかわされている自分に視線が集まっていると思ったのだ。 の苛立ちは頂点に達しそうになっていた。 「……ちょっと何見てるの?殺されたい?」 の、そのまるで絵に描いたように美しい顔でそう凄まれ、並中生は怯えたように一斉に逃げるようにして校内へ駆け込む。 「フン……弱い奴はすぐに群れたがる」 はそういって鼻を鳴らすと、第三者が聞いたら『間違いなく兄弟だ』と太鼓判を押しそうな台詞を紡いだ。 もちろん、本人はまったくの無自覚なのだが。 「さぁ、グズグズしてないで行くよ」 「ちょっと、ボクはまだ行くなんて言ってな……」 「僕は決めた」 再びが抗議しようと口を開いた時、不意に視界が翳った。 「委員長、お待ちしておりました」 今時キッチリリーゼントを決め込んだ古風な男だ。 「草壁か……どうした」 草壁は一瞬恭弥の隣のに目を奪われ頬を赤らめたが、恭弥の鋭い視線に瞬時に表情を引き締めると何事かを耳打ちした。 「……これだから、草食動物は」 恭弥はそうぼやきながらも、楽しそうに口角を吊り上げた。 そしてを振り返る。 「、ちょっと野暮用が出来た」 「大歓迎さ、じゃここで解れよう。本返して」 「だから応接室で待ってなよ。10分で終わらせるから」 「待ってないって言ってるでしょ!」 「草壁、この子を応接室へ案内して」 「ちょっと、一人にしてって言ってるでしょ!」 「解りました、さん。私は隣室に控えておりますから、御心配なく」 「そういう事じゃなくて!」 本を持ったまま踵を返した恭弥の背にが尚も噛みつくように言葉を吐こうとすると、やんわりと、しかし力強く草壁が押しとどめた。 「さん、どうかお願いです。今だけは委員長の言う事を聞いてください……!」 そのあまりの剣幕に、思わずは不本意ながらも言葉を飲み込んだ。 06. 痛くもかゆくもないさ 言葉通り草壁は隣室に控えており、は応接室の革張りの上質なソファに一人でかけ、これまた御丁寧に草壁によって出された上質な紅茶を優雅に飲んでいた。 応接室に持ち込まれた不釣合いなデスクには風紀委員の書類が薄く積まれている。 恭弥は有能な男だから、仕事を溜め込む事もしなければ、仕事に追われることもない。 はソファから身を起こすと、デスクに積まれた書類の一つに視線をやった。 何かの建築の設計図のようだ。 まさか、いくら力があるといってもそこは一介の中学生、建物一棟を建設する力はないだろう。 は不意に興味をそそられて立ち上がり、その書類を手に取った。 「並盛……地下ショッピングモール……?」 その設計図には全長1キロに渡る地下アーケードの建設計画が記されていた。 「ふぅん。前に父さんが言ってたのはコレの事か」 建築業会にも顔の聞く事業家の父が、前に地下ショッピングモール計画があると言っていたのはつい数ヶ月前だ。 しかし、そんな庶民の歓楽に恭弥が興味を持つだろうか。 確かに並盛の風紀に心血を注いでいる恭弥の事であるから、ある程度の情報を得ようとするに違いない。 しかし腑に落ちないのはこの設計図が正式な自治体の物でない複製であることと……どうみてもショッピングモールの物と思えない不自然な空間があることだった。 「――失礼します。さん、紅茶のお替りはいかがですか?」 不意にノックと共に草壁が現れる。 瞬間、の手元に視線をやり僅かに草壁の顔に緊張が走った事をは見逃さなかった。 「……これ、なに?」 はまるで天使を思わせるような完璧な笑顔で、そう質した。 まるで地獄絵図……そう表現するのがもっとも適切だろうという光景が恭弥の眼下に広がっていた。 もう何人を噛み殺してきたかも解らない。 しかし、まだ、足らない。 この、闘うという行為はともすれば本来の目的を忘れてしまいそうなワクワク感を恭弥にもたらすのだ。 特に猛獣のような強い者と闘うゾクリとした背を這う快感は何物にも変えがたい――唯、一つを除いては。 恭弥は頬についた返り血を手の甲で拭うと、ペロリと舌で舐め取った。 ツンと鉄の味が口内に広がり、ここが狩場だという事を実感させてくれる。 「さあ、もういい加減出てきたらどうだい?」 恭弥は薄く笑いながらそう呟いた。 雑魚をいくら噛み殺してもこの火がついた体の火照りはさめない、飢えたような渇きは収まらない。 なによりここへ乗り込んできた本来の目的が達成できない。 「流石、守護者の中でナンバー1の強さを持つと言われるだけの事はありますね。雑魚では相手にならない」 「ふぅん……人の弟の事をこそこそ調べてると思ったら、ずいぶんと色々と知ってるみたいじゃない」 ぎらり、と恭弥の瞳が猛獣の光を帯びる。 「ええ、キミの弟さんほど優秀な人材は他にいませんからね……。わが組織が大きくなる為には欠かせない人材だと思っていますよ」 ククク、と嫌らしい笑いを浮かべて南欧系の顔立ちをした優男が姿を現す。 「ま、こんなに早く貴方に気がつかれてしまうとは不覚でしたが」 「……なんでもいいよ。どのみち君はすぐに僕に噛み殺されるんだし」 「その意見には賛成ですね。もっとも殺されるのは貴方ですが」 急激に殺気が冷たい刃となって肌にぴりぴりと突き刺さる。 互いが一歩、また一歩と間合いを詰めるたびに、割れたガラスがジャリ、と乾いた音を立てた。 ふわり、と風が一陣凪いだ瞬間、空気を切り裂いたように恭弥のトンファーが男に襲い掛かった。 男は半歩下がると特注のナックルガードでそれをかわす。 思いの他力強い防御にジィンという痺れが恭弥の腕を伝ったが、構わず恭弥は第二撃を繰り出した。 風圧で肌が切り裂かれそうな勢いで、それは男のがら空きのわき腹に正確に向かう。 決まった、と瞬間的に恭弥の唇が上がる。 しかし、男は腰をひねると助走もなくその足を垂直に振り上げ、寸での所で恭弥の肘に一撃を加えた。 強烈な痺れに思わずトンファーを持つ指先の力が抜けそうになるのを堪えると、今度は恭弥が半歩間合いを取った。 「おやおや、大丈夫かい?」 「フン、痛くも痒くもないよ」 恭弥はイラついた様にその端正な眉をしかめると、トンファーを握りなおす。 「君は……徹底的に噛み殺してあげるよ」 お題配布元「冤罪」様 http://love.meganebu.com/~rosequaiz/ |
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