第3回主人公設定アンケート第1位 <雲雀恭弥弟設定>
COOL 〜Episode 3〜 <天邪鬼10のお題より> |
07. 誰が泣いてやるか 「……ったく、馬鹿恭弥め」 は怒りに肩を震わせながらその長い足を颯爽と動かし大股で駆けていた。 走りながらはその頬についた鮮血を乱暴に拭う。 話を逸らそうとする草壁に、魂も凍りつくような悪魔の笑顔で情報を吐かせてから約5分といったところか。 流石、始終風紀副委員長として恭弥のそばに仕えているだけあって草壁も粘ったが、そこはそれのデビルスマイルに敵うはずもなく、最後には敢え無く降参を強いられた。 そうして再三止める草壁の制止を振り切って、は恭弥……兄の向かったであろうビルへと向かっている。 勿論、たった一人自分の為に敵地に向かった兄の助太刀をするため……であろう筈がなく、ただそうやってこそこそと自分を監視するかのような行動をする恭弥に腹が立ったからと言う理由である。 正直、恭弥は一度誰かに負けて屈辱という物を思い知ればいいと、は思っていた。 しかし、反面あの凶暴な恭弥が誰かに負ける事などないだろうと、そうも思ってもいる。 はその複雑な胸中に、溜息を一つついた。 「何が10分で終わらせる、だ」 恭弥が出て行って、既に30分は過ぎている。 はその形の良い眉を潜めながら、廃墟に近いビルの玄関の扉を乱暴に押し開いた。 とたんに現れる気絶した数名のガラの悪そうな男達。 間違いない、恭弥が噛み殺した者達だろう。 僅かではあるが胸が上下しているところを見ると死んではいまい。 この分なら迷わずに恭弥の所までたどり着くことが出来るだろう。 は倒れている男達を悪意を持って踏み越え、足蹴にしながら奥へと進んだ。 「なかなか手強いねぇ。流石守護者ナンバー1の強さを持つと言われるだけはあるようだ。私がここまで梃子摺るとは」 南欧風の男は特性の手甲で額の汗を拭くと、恭弥に嫌な笑みを向ける。 「煩いよ。ゴチャゴチャ言ってないでかかってきなよ。噛み殺してあげるから」 不機嫌そうな顔で恭弥は男を見上げる。 「クク、そう焦るなって。んー、そろそろだな。今からいい物見せてやるからさ」 男はそう言うと携帯電話のフリッパーをあけ、恭弥へと向けた。 「コレ、なーんだ」 「……!」 瞬間、恭弥の鋭い眼差しにほんの僅かだけ狼狽の色が浮かぶ。 「……並中が、どうしたっていうの」 「ハハ、解ってるくせに聞くねぇ」 男は嫌らしい笑いを浮かべたまま、携帯電話をゆるりと振った。 「君の弟クン、ここにいるんでしょ?あんまり手間取らせるようならちょっと荒っぽい方法で弟クンにお越しいただく事になるぜ?」 「……」 「理解した?つーわけで、大人しく殴られてくれよな」 男はフリッパーを余裕気にパタン、と閉じると、それを握ったまま恭弥の横顔に拳を打ちつけた。 「……ッ!」 まるでスローモーションのように恭弥の身体が後方に振られる。 恭弥は2歩よろけた後なんとか軸足で踏ん張ると、男を鋭くにらみつけた。 「それで……終わり?」 「ハハ、まさか!」 そう言うと、男はさらに恭弥の鳩尾に下から強かに拳を叩きこむ。 内臓を押し上げるあまりに強烈で不快な衝撃に、恭弥の脳内で火花が散った。 直後に襲う吐き気を必死でこらえるが、更に恭弥の身体は数歩後退する。 「ううん……美しいねえ、兄弟愛ってのも」 男はうっとりと恍惚とした表情を浮かべると、片膝をついた恭弥を見下ろす。 「――悪いけどあんたが思ってるほどキレイなもんでもないよ」 不意に凛とした風のような声が廃墟に響いた。 「……だれだ?」 男は微かにうろたえた様に素早く後方を振り返った。 「君さ、はっきり言って計画に穴ありすぎだよね。下調べも少な過ぎだし、及第点はあげられないね」 そう言いながら侵入者……は片手に持っていた丸めた設計図を肩に担ぐようにして、にっこりと貼り付けたような笑顔で立っていた。 「君は……」 「……なんで来たの」 男の質問を掻き消すように恭弥が厳しい視線でを捕らえる。 「恭弥の泣き顔を見に」 まるで勝ち誇ったかのように、はその完璧な悪魔の笑みをいっそう深くした。 「……こんな程度の男相手に、誰が泣いてやるもんか」 ぎろり、と男をにらみながら恭弥はよろよろと立ち上がった。 08. ああ言えばこう言う 「随分と余裕の様子だが、条件はなんらかわりないんだぜ?いいかい、君。キミが我々に協力すると約束するのならお兄さんは解放しよう。もし逆らうと言うのなら、キミはそこでお兄さんが甚振られるのを見学する事になる」 男はそう言ってを振り返ると、どう見ても品が良いとはいえない笑顔を向ける。 はその笑みに心底嫌そうな顔を向けると、大層に肩をすくめて溜息をついた。 「だからぁ……アンタ、さっきから言ってるけど、計画に穴がありすぎ。本当に状況が変わってないと思うの?」 「……なに?」 「まず情報不足その1、ボクら兄弟はそれほど仲が良くない。恭弥が殴られて僕が動揺すると思ってるなんて、考えが甘いね」 フン、とは鼻を鳴らした。 「その2、ボクがひ弱な研究一筋の一般市民だと思ってる事。悪いけどボク、アンタの部下にやられるほど弱くないよ。並中へ行くよう指示したアンタの部下、多分暫く起きないと思うし」 「……!」 「それからもう一つ」 そこでは優雅な動きで男の背後を指差した。 「――恭弥の今までの動きを最高のパフォーマンスだと思ってること、さ」 「……なん、だと」 ゾッとした背を刺すような殺気に、男は瞬時に振り返る。 獣を狩る強い狩人の目、その相貌が男を射抜いていた。 「アンタの組織、もっとカリスマのあるボスとブレーンがいるんじゃない?……あ、その為にボクにちょっかいをかけてきたんだっけ?ははっま、どうでもいっか」 はそう言って可笑しそうに人差し指で自分の頭を差した。 「さてと、じゃ、約束通り君を噛み殺すことにしよう」 ユラリ、と恭弥はトンファーを構えて立ち上がった。 唇に滲んだその血を赤い舌が舐め取る。 その姿は壮絶なまでの殺気を湛えていて、男は半歩後じさった。 「……っひ!」 「ふん。どうしたの、今までの威勢は。君もやっぱり狼の皮を被った草食動物……ってわけかい」 恭弥はそう言ってまるで相手への興味が失せたかのようにその眉をしかめた。 「く……っ!」 男は瞬間的に思考を巡らせ、撤退を余儀なくされたことに思い至る。 出口はの塞いでいる扉一箇所。 恭弥の逃げ場をなくす為に行った戦略の結果に自らが嵌っている屈辱に、男はギリ、と歯を軋ませた。 恐らく一人なら倒し、逃走する事は可能だろう、と男は思う。 男はチラリと扉を見やり、僅かな逡巡の後素早く道を決めた。 「……どけっ!」 何の躊躇いもなく、男はの居る扉に突進する。 「逃げる気?そう言う訳なら容赦なく噛み殺すことにするよ」 不意に、まるで時が止まったかのような瞬きする暇もないほどの沈黙の後、男は自らの鳩尾に恭弥のトンファーによって繰り出された強烈な一撃が入っている事に漸く気づいた。 「……あ?」 頭の芯がグラグラと揺れるような強烈な吐き気をもよおした瞬間、口の中に鉄臭い鮮血の味がこみ上げる。 ――いつの間に……。 湧き上がる不快感を押さえ込みながら、僅かな意識の中そう問う。 間違いなく恭弥は男の後方に居たはずだ。 男は、恭弥の位置を確かめるべく視線を上げた……瞬間、首筋に鈍い痛みが走る。 男は倒れるのとほぼ同時に、その意識を手放した。 「……で、君はどうしてこんな場所に来たの」 恭弥はトンファーをカチリ、と仕舞うとまるで挑むようにに強い視線を投げる。 「恭弥こそ、なんで最初手を抜いてたんだよ」 も負けじと視線を撥ね退ける。 互いの視線が絡まると、まるでそれは火花が散るかのように激しく弾けた。 「……聞きたい事があったからさ」 不意に恭弥は目を伏せて視線を外すと、面倒そうにそう答える。 「何でボクを狙うかって事?」 「知ってたの?」 「ボクは強さでは恭弥には敵わないけど、頭脳なら恭弥には負けないよ」 「じゃあ、なんで言わないの」 「恭弥が余計な世話焼くからだろ!」 は、ムッとしたように眉を潜める恭弥の視線に妙な居心地の悪さを感じ、喚くように返す。 「まったく……君はああ言えばこう言う」 「それは恭弥もだろ!」 の良く通る声が、コンクリートの部屋中に賑やかに響いた。 お題配布元「冤罪」様 http://love.meganebu.com/~rosequaiz/ |
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